
今晩は、昨日リリースされたばかりのオルガ・パシチェンコの弾く、フェリックスとファニー・メンデルスゾーンのピアノ作品集《Guess Who?》を聴きます。
収録曲
フェリックス・メンデルスゾーン(1809–1847)
《無言歌集》作品19bより
1.第3曲 Molto allegro e vivace, MWV U 89
2.第5曲 Poco agitato, MWV U 90
フェリックス・メンデルスゾーン
《無言歌集》作品30より
3.第1曲 Andante espressivo, MWV U 103
4.第2曲 Allegro di molto, MWV U 77
5.第3曲 Adagio non troppo, MWV U 104
6.第4曲 Agitato e con fuoco, MWV U 98
7.第6曲 Venetianisches Gondellied. Allegretto tranquillo, MWV U 110
ファニー・ヘンゼル(メンデルスゾーン)(1805–1847)
《ピアノのための4つの歌》作品2より
8.第1曲 Andante, H.301
9.第3曲 Villa Mills. Allegretto grazioso, H.357
フェリックス・メンデルスゾーン
10.《無言歌集》作品38 第2曲 Allegro non troppo, MWV U 115
11.《ゴンドラの歌》イ長調 MWV U 136
12.《無言歌集》作品38 第5曲 Agitato, MWV U 137
フェリックス・メンデルスゾーン
《無言歌集》作品62より
13.第3曲 Andante maestoso, MWV U 177
14.第5曲 Venetianisches Gondellied. Andante con moto, MWV U 151
15.第6曲 Allegretto grazioso, MWV U 161
ファニー・ヘンゼル(メンデルスゾーン)
《ピアノのための4つの歌》作品6より
16.第2曲 Allegro vivace, H.356
17.第3曲 O Traum der Jugend, o goldner Stern. Andante cantabile, H.424
18.第4曲 Il Saltarello Romano(Tarantella). Allegro molto, H.372
フェリックス・メンデルスゾーン
《無言歌集》作品67より
19.第2曲 Allegro leggiero, MWV U 145
20.第5曲 Moderato, MWV U 184
21.第4曲 Presto, MWV U 182
ファニー・ヘンゼル(メンデルスゾーン)
《ピアノのための4つの歌》作品8
22.第1曲 Allegro moderato, H.423
23.第2曲 Andante con espressione, H.463
24.第3曲 Lenau. Larghetto, H.461
25.第4曲 Wanderlied. Presto, H.458
フェリックス・メンデルスゾーン
《無言歌集》作品102より
26.第1曲 Andante un poco agitato, MWV U 162
27.第3曲 Kinderstück. Presto, MWV U 195
フェリックス・メンデルスゾーン
28.《無言歌集》作品19b 第6曲 Venetianisches Gondellied. Andante sostenuto, MWV U 78
29.《無言歌集》作品53 第6曲 Molto allegro vivace, MWV U 154
ファニー・ヘンゼル(メンデルスゾーン)
30.ノットゥルノ ト短調 H.337
オルガ・パシチェンコ - Olga Pashchenko(フォルテピアノ)
使用楽器:1836年製コンラート・グラーフのフォルテピアノ
Alpha Classics ALPHA1119
2025年2月21日リリース
全30トラック・約1時間22分
録音:2023年5月
Muziekcentrum van de Omroep, Hilversum, Netherlands
録音・マスタリング:Franck Jaffres
24-Bit/96kHz
パシチェンコはモーツァルトのピアノ協奏曲第9番、17番、20番、23番の演奏を聴いてからずっと気になっている女性ピアニスト。古楽器での演奏で、小気味良くてハッとさせるパッセージを時折織り交ぜて、とても気に入っていたのですが、このメンデルスゾーンの《無言歌》を中心としたアルバムはどうかな?
アルバムのタイトル《Guess Who?》の意味は、作風の非常によく似ている二人の作品を並べて、さあ、この曲は兄?妹?どっちの作品?って問いかけているようですね。
フェリックスは《Lieder ohne Worte(無言歌)》というタイトルで作曲し、ファニーは同じジャンルを《Lieder für das Pianoforte(ピアノのための歌)》と作品に名付けていたとのこと。似ているけど微妙に違う、という感じでしょうか・・・。
ピアノは1836年製のコンラート・グラーフ。今のピアノでは使われなくなったウィーン式アクションです。
ウィーン式アクションは、ハンマーが鍵盤後部の機構と直接的に結びついた、現代のグランドピアノとはかなり異なる構造。この時代のグラーフはすでにスプリング付きのエスケープメントも備えていましたが、ハンマーそのものは現代のものより軽く、革が重ねて張られています。タッチも軽く、細かなニュアンスや速いパッセージに素早く反応する一方、現代のグランドピアノにあるダブル・エスケープメント機構はありません。
音色は柔らかくて、現代のピアノに比べればあまり大きな音が出ませんが、細かい音はコロコロと可愛く転がる感じ。
モデレーターという弱音装置があって、これを使うとハンマーと弦の間に薄い布が入り、音色がさらに柔らかくなって、独特な、なんとも言えない倍音を含んだ音を出せます。パシチェンコはこのアルバムで時々このモデレーターを使って演奏しています。
現代のアップライトピアノにも、ハンマーと弦の間にフェルトを入れて音量を落とす似たような仕組みがありますが、歴史的なフォルテピアノのモデレーターは、単なる練習用の消音装置というより、音色そのものを変える表現手段としても使われていたようですね。最近これを使った録音も多くなりました。
どの曲も愛すべき小品で、曲の並び方はパシチェンコ自身の中にあるストーリーに沿っているようですね。楽しい狩の気分のイ長調で始まり、やはり激しいイ長調の曲で終わるのにも意味があるとのこと。一番最後にはファニーのノクターンがアンコール的に置かれています。
私は縁あって、こういったグラーフのような古いピアノを日常的に触ることができる環境にいるのですが、実際のグラーフの響きは仄暗く、柔らかく、くぐもったような響きで、現代のピアノとは全く違ったもの。
フォルテッシモなんてあんまり出なくて、金属的なガンガンした音は皆無です。昔のピアノには譜面台の横に燭台がついているものが多いのですが、薄暗い部屋の中で蝋燭を頼りに楽譜を見ながら兄妹がそれぞれの作品を聴かせあっているような・・・そんな想像を掻き立てられるアルバムです。
パシチェンコもライナーノートで書いていますが、このフォルテピアノで弾くと、まるで物語を喋っているような、朗読しているような感じに聴こえてきます。これこそ《無言歌》や《ピアノのための歌》にふさわしいですね。
アルバム全体にさまざまなタイプの小品が並べてあります。快活な音楽からちょっとデモーニッシュなもの、そして淡いロマンの香りのするもの・・・。聴いていて飽きません。
パシチェンコらしいのは、ただ単に古い響きに頼るのではなく、素早いパッセージの中に華やかさ、ニュアンスの変化、さまざまな音色を駆使して、時にはモデレーターも使いながらストーリーを語りかけてきます。
このウィーン式アクションの系譜にある楽器はメンデルスゾーンだけでなく、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、シューマン、そして時代が下ってブラームスの頃まで使われていました。それを考えると、現代のピアノで聴く彼らの作品って、作曲家がイメージしていたものとはかなり違っているのではないかしらん?
だからたまにはこういう古雅な響きの演奏に耳を傾けるのはとても大事。パシチェンコの演奏はこういう楽器を使っても古めかしさは全く感じさせずに、爽やかな青春、みたいな、これこそが作品本来に求められている姿なのかと感じさせます。
それはバッハを聴くのにはやっぱりチェンバロで聴くのがしっくりくるように。現代ピアノで聴くのもいいんですけどね。本当の姿を知っておきたい、っていう感じ。
さて、このアルバムのタイトル、どっち?という問いですが、確かに兄・妹の音楽は微妙に異なりますね。
例えばフェリックスの曲が続いた後に最初に出てくるファニーの《ピアノのための4つの歌》作品2は、明らかに響きが優美。重さがスッと抜けて、美しい分散和音の中に旋律が浮かび上がる。フェリックスのドラマティックな音楽とは雰囲気が一転します。
パシチェンコは作曲家によってあえてコントラストをつけているような気もしますね。音色が兄・妹ではっきり変わるのは曲のせいだけではないかも。
そしてどの曲も確かに何か歌詞がついてもいいような旋律線に溢れていて、フォルテピアノだけで聴いていても歌曲を聴いているような気持ちになりました。
このアルバムは直接音がガンガン鳴るバックロードホーンよりも、薄い幕がかかっているようなハーベスの方が本物の音に近いですね。古楽器って倍音を強調したような録音が多いけれど(ギラギラしたチェンバロみたいに)、このアルバムは優しい響きに包まれて幸せな気分になれます。
たまたまネットで調べてたらパシチェンコって来月来日するんですね!聴きに行こうかなぁ。
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