クラシックとオーディオの日々

毎日聴いている音楽の記録です。

モーツァルトと同時代の作曲家たち ジャダン、アイブラー、ヴラニツキーの弦楽四重奏曲集

f:id:picolist:20251217171919j:image

今晩は、Navonaレーベルから12月12日にリリースされた「Mozart’s Contemporaries」と題されたアルバムを聴きます。


収録曲は以下の通り。
ヤサント・ジャダン(Hyacinthe Jadin, 1776–1800)
弦楽四重奏曲 ヘ長調 作品4-2
 I. アレグロ・ノン・トロッポ
 II. メヌエット―トリオ
 III. アダージョモルト
 IV. アレグロ・アッサイ


ヨーゼフ・アイブラー(Joseph Eybler, 1765–1846)
弦楽四重奏曲 変ホ長調 作品10-1
 I. アダージョアレグロ
 II. アンダンテ
 III. メヌエットモデラート―トリオ
 IV. アレグロモルト


パヴェル・ヴラニツキー(Paul Wranitzky, 1756–1808)
弦楽四重奏曲 作品23-2
 I. アレグロ
 II. アダージョ
 III. フィナーレ:テンポ・ディ・メヌエット
演奏;La Speranza


ジャケット写真をパッとみると、どう考えてもモーツァルト弦楽四重奏かな、と思いますよねぇ。しかしこのアルバムにはモーツァルトの曲は1曲も入っていません。モーツァルトと同時代を生きながら、モーツァルトというあまりにも偉大な作曲家の影に隠れてしまい、現在ではほとんど演奏されない弦楽四重奏曲に光を当てたアルバム。最近こういった知らない作曲家の録音に惹かれます。マニアックかもしれないけれど、果たして「大作曲家」の作品だけがすごいのか?あるいは大作曲家の駄作vs無名作曲家の最高の作品とどちらがいい曲なのか?色々考えながら聴いてしまうんですね。


演奏しているラ・スペランツァは18世紀から19世紀の室内楽、有名なものだけでなく知られざる作品にも光を当てる活動を続けている米国ヒューストンのアンサンブル。イタリア語の「希望」を意味する名を冠して2016年に設立、ヴァイオリンのジョアンナ・ベッカー、マリア・リン、ヴィオラのイヴォンヌ・スミス、チェロのフラン・コイナーというメンバー。


早速聴いてみましょう。


まずはヤサント・ジャダン(1776–1800)。フランスの古典派から初期ロマン派への過渡期の作曲家。生年没年を見ると夭逝していますね。5年間の結核の闘病の末なんとたった24歳で亡くなっています。モーツァルトよりもはるかに若くこの世を去っていますが、やはり早熟で9歳で作品を出版、10代前半ですでにピアノ教室、作曲家として活動するという、モーツァルト並みの神童だったようです。フランス革命やコンサート文化の拡大という激動の時代の中で、サロンや市民向けの室内楽ピアノ曲で、ハイドン的な形式感にフランス的な洗練と、芽生え始めた浪漫的感情を内側に秘めているのが特徴。
ここで演奏されている弦楽四重奏曲は晩年の結核闘病期に作られた作品。
第1楽章Allegro non troppo。パッと聴くと趣味のいい優雅な音楽ですが、まず1stヴァイオリンだけが活躍するのではなくて、各楽器が鳴って厚い響き。そして、どの作曲家にも晩年に聴かれるどこか澄んだ響きとふっと見せる寂しさ。展開部も激しさよりも柔らかさが感じられます。
演奏・録音はちょっとくっきり過ぎるくらい・・・ただこれはもしかしたらDACを変えたので、印象が鮮烈に聞こえるのかな?1stヴァイオリンが細めで美しい音なのに、2ndヴァイオリンは結構太い音で主張し、ヴィオラとチェロもとても張った音色で、すべての楽器がよく鳴っているという感じ。
第2楽章メヌエット、簡素で控えめ、なんというか上品で端正。トリオは軽やかな対比が置かれます。あえて感情を抑制して、遠くから眺めているかのような・・・
第3楽章はアダージョモルトはほとんど四分音符と二分音符で奏されるハ長調のテーマですが、内声の2ndヴァイオリンとヴィオラが厚くそれが深い響きを作ります。感情は抑制され、表現は内側に向いていて、シューベルトのような異常な静けさとはまた違う、死を見据えつつあえて明るい響きを出そうとしているかのような。
第4楽章はAllegro assaiで、再び活気を取り戻し、1stヴァイオリンを中心にしながら時に他のパートが細かい音を入れて充実しています。モーツァルトハイドンの意匠を継ぎつつも、対位法的にはそれほど凝っておらず、シンプルな中に時に陰影が感じられる作品。
あまりに短い生涯をつい意識して聴いてしまいます。


続くヨーゼフ・レオポルト・アイブラー(1765–1846)は、ウィーンで活躍した作曲家。ハイドンとは家族ぐるみの付き合いがあり、パパ・ハイドンを通じてモーツァルトと知り合い、終生の親友となります。作曲技法をお互いに深く理解しあう関係でした。そしてモーツァルト晩年、病気になったウォルフガングを寝床に寝かせて看病もしています。さらにはモーツァルト没後、妻コンスタンツェは最初に「レクイエム」の補完を依頼したものの、モーツァルトの音楽の偉大さを尊敬するあまり、筆を置いて、結局はジュスマイヤーが完成させます。当時は「モーツァルトを除けば最も優れた作曲家」と言われ、ハイドンからも高く評価されていました。ただ、非常に謙虚でいい人だったようで、それが作風にも現れているように感じます。


この弦楽四重奏曲 変ホ長調 作品10-1は1790年代後半の作品。
第1楽章はAdagio-Allegro。最初はミュートをつけての静かな序奏が娯楽ではない本格的な作品であることを暗示させます。主部は活発で推進力なる主題。そして特徴的なのがヴィオラが大活躍すること。1stヴァイオリンと対等に張り合います。展開部ではチェロも前に出て、楽器間の様々な対話と協奏があり、ちょっと劇場的。
第2楽章はシチリアーナ風の揺れるリズムが心地よいメロディ。ここでもヴィオラとの対話が目立ちます。感情は抑えられ節度を保ち、健康的で、先ほどのジャダンの内側を向いたアダージョとは対称的。最後のワンフレーズをピチカートで終えるのもオシャレ。
第3楽章はメヌエット モデラート。少し重めのリズム、そして優雅なトリオ。声部の交錯が特徴的。いわゆる古典派のメヌエットの典型。
第4楽章Allegro moltoは弾んだリズムが楽しく活力と喜びの音楽。明るく遊び心に満ちた楽しい楽章。途中ヴァイオリンが技巧的に活躍します。屈託のないのが魅力。ゲネラルパウぜで転調させ、チェロが活躍しながら対位法的に発展しますが、基本は気軽な楽しさが魅力です。


最後のパヴェル・ヴラニツキー(1756–1808)はモラヴィア(現在のチェコ)出身でウィーンにおいて活躍した方。生年で気がつかれましたでしょうか、モーツァルトと同い年で、やはり親友だった人。遺作の出版を交渉したり、ベートーヴェン交響曲第1番の初演を依頼したり、この前聴いたハイドンの「四季」初演を依頼されたり、非常に信頼の厚い指揮者でもありました。10曲のオペラの56曲の交響曲(一説によると73曲!)、そして多くの弦楽四重奏曲と多作な方。
弦楽四重奏曲 作品23-2ホ短調、これも1790年代後半の曲。そしてベートーヴェンソナタを捧げたチェロの名手だったプロイセンフリードリヒ・ヴィルヘルム2世に献呈されています。ですから第1楽章はいきなりチェロによる主題提示で、かなり高音まで使った特徴的な開始です。メロディも速い中に哀愁が感じられる作品。今までものよりもよりベートーヴェン的な力強さを秘めています。
ここでラ・スペランツァはあえてヴァイオリンを対向配置にして対比の面白さを出していて、基本的に動的、推進力があり、劇的な四重奏です。
第2楽章Adagioは全楽器ミュートで祈るようなテーマ。静かですが、和声的には緊張と弛緩が繰り返されます。中間部は弱音器が外されて、短く素朴な民謡風旋律が置かれて明るさが差し込み、対比が明確。そして再びミュートをつけられ祈りのうちに終わります。
第3楽章テンポ・ディ・メヌエット。この曲は3つの楽章でこの曲が終曲。三拍子ですが、民族的なリズムとヘミオラが特徴の強拍を強調する推進感が特徴。ここでも2ndヴァイオリンとチェロが大活躍。これは王様も喜んだんじゃないかしら。


ということで、現代では完全に忘れられてしまった三人の作曲家、ジャダンの内省、アイブラーの均衡、ヴラニツキーの推進力。この三人を並べて聴くことで、18世紀末の弦楽四重奏が決してモーツァルト一人の世界ではなかったことが実感として見えてきました。
まだまだこういった隠れた美しい作品が埋もれているのでしょう。それらの発掘もまたリスナーの楽しみでありますね。


録音:2024年11月11日・18日、2025年2月24日(米テキサス州ヒューストン、Tallowood Baptist Church)
セッション・プロデューサー & エンジニア:Ryan Edwards
編集/ミキシング/マスタリング:Ryan Edwards
ジャケット写真:Tara Flannery
エグゼクティヴ・プロデューサー:Bob Lord

 

classical.music.apple.com

 

open.qobuz.com