クラシックとオーディオの日々

毎日聴いている音楽の記録です。

デヤン・ラツィッチのピアノによるモーツァルトのピアノ協奏曲第20番と第12番

今晩は、Challenge Classicsから10月17日にリリースされたデヤン・ラツィッチのピアノ、ヤン・ウィレム・デ・フリエント指揮のベルゲン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏で、モーツァルトのピアノ協奏曲第20番と第12番などを聴きます。
 
収録曲は以下の通り。
 
ヴォルフガング・アマデウスモーツァルト(1756–1791)
ピアノ協奏曲 第20番 ニ短調 K.466
カデンツァおよび導入部:デヤン・ラツィッチ
第1楽章:アレグロ
第2楽章:ロマンス
第3楽章:アレグロ・アッサイ
 
ピアノのためのロンド ニ長調 K.485
 
ピアノ協奏曲 第12番 イ長調 K.414
カデンツァおよび導入部:デヤン・ラツィッチ
第1楽章:アレグロ
第2楽章:アンダンテ
第3楽章:ロンドー:アレグレット
 
これは2ヶ月ほど前にリリースされたアルバム。気になってはいたけど、聴き漏らしていた1枚。モーツァルトのピアノ協奏曲フリークの私にはどうしても欠かせない一枚。そしてこの演奏者の組み合わせのモーツァルトの協奏曲シリーズ、3枚目となり、これで一区切りのようです。
 
ピアノのデヤン・ラツィッククロアチアザグレブ生まれ、ザルツブルグで育って、モーツァルテウム音楽院でクラリネットとピアノ、作曲を学んでいます。1991年にはモーツァルトのピアノ協奏曲とクラリネット協奏曲のアルバムを出すという多才ぶり。作曲ではこの協奏曲のカデンツァを作曲していて、作曲の腕も確かなもの。作品のアルバムも出ています。だいぶ前ですが、来日もされています。
 
指揮のフリエントはHIPの精神を現代オケで体現しようとしている人。現代楽器を用いつつ、歴史的な奏法に基づく演奏によって珍しい作品を蘇らせてきているとのこと。
 
ベルゲン・フィルハーモニー管弦楽団は1765年に創設された、世界でも最も長い歴史をもつオーケストラのひとつで、ノルウェーを代表する国立管弦楽団1880年から1882年にかけてはエドヴァルド・グリーグが芸術監督を務めています。現在はエドワード・ガードナーが首席指揮者を務めています。新年早々にブラームス交響曲第2番がガードナー指揮でリリース予告が出ていて、とても楽しみ。
 
さて、早速聞いてみます。
 
ピアノ協奏曲 第20番 ニ短調 K.466。あまりにも有名なこの曲をどのように料理しているでしょう。
まずは録音が非常に秀逸。透明で濁りのない音です。北欧の録音らしい。
前奏、古楽的な奏法を求めるというフリエントらしく、仄暗い冒頭から激しいテュッティ、ティンパニが何度も強打されドラマティックな響き。弦楽器はノンヴィブラート。
ラツィッチのピアノは、オケとは対照的に柔らかい入り。カンカン弾くような鋭さはなく、透明で明晰。語りかけるように始まりますが、やがてはこの曲の持つドラマが展開していきます。音楽はあまりロマン的にはならず、古典的な形式感を守りながらも、激しいティンパニの強打との差を意識しているかのよう。
そしてなんと言ってもこの録音の特徴はラツィッチ作曲のカデンツァ。即興的であるよりは構造的、そして和音と音階が重層的に連続しながら、やや厚みのあるハーモニー。少し古典派のスタイルとは離れていて、ピアノの技巧と内的な緊張感を高め、切らすことなく、終結への自然なブリッジになっています。
 
有名な第2楽章、ロマンス。まずはピアノの穏やかな、ソロとオーケストラの柔らかな響きと木管の透明な色彩が繊細。ピアノの音色はソフトですが、左手は思いのほか大きめで、内声を少し際立たせることで和声的な構造をしっかり掴みながらの演奏かな。装飾も大胆に取り入れて楽しませてくれます。お、そうくるか、みたいな、作曲家らしい装飾で、即興的というよりはだいぶ考えたな、と思わせますね。
中間部、ト短調では一気に表情が変わり、ピアノは前のめりで切迫感が感じられ、オーケストラの和音はHIP的な激しい響き。ただ激情に流れるのではなくて、左手もペダルは使わず音形がしっかりと聴こえてくることで、この曲の持つ形式美も保っています。あくまで均衡を失わず、安らかな主部へと回帰します。木管のハーモニーが美しくて印象的。
 
第3楽章、アレグロ・アッサイ、一気に感情が溢れるかのようなピアノ独奏とオーケストラ。ティンパニは再び強くなり低弦もゴシゴシ弾いて迫力満点。続くピアノのソロもあまり大袈裟にテンポを変えることなく進みます。最初のカデンツァのパッセージは上行の分散和音を中心に少し凝ったもの。メインのカデンツァはこれも音をたっぷりと使って厚いハーモニーとピアノの技巧を十分に示すもの。ちょっとベートーヴェンに近いくらいの重い響きではあります。その後はアルベルティバスに乗った軽やかなテーマ、そして緊迫感のあるアルペジオ。かなり作曲しました!という感じが強いカデンツァ。終わってからニ長調に転じると一気に音楽明るさを増して充実のフィナーレ。
 
続くピアノのためのロンド ニ長調 K.485。逆付点が特徴的なフレーズで始まる独奏曲。このシリーズでは真ん中にモーツァルトのロンドを挟み込んでいるのが特徴ですね。柔らかで喜びにみち、そして繰り返しでは音を自由に変えるのが作曲家でもあるラツィッチらしいところ。アーティキュレーションは明確・明瞭そのもの。
 
続くピアノ協奏曲 第12番 イ長調 K.414。これはついこの間、サスキア・ジョルジーニのピアノ、トロンハイム・ソリスツで聴いたばかり。
上記の演奏はオケが弦合奏版というちょっと珍しいものでしたが、こちらは管楽器も入ったフル編成。
いきいきした前奏、少し厚めのオケの音で、躍動感あるテンポ。このコンチェルト好きだわぁ。独奏が入ってもこのテンポ感は変わらず。音は現代のピアノなのですがとても軽やか。タッチは明晰でフレーズがとても歌いこまれています。カデンツァ、ここでは20番の時のような重めのカデンツァではなくて軽やかなもの。やはり曲に合わせているのですね、作曲家としては当然ですが。しかし色々転調したり、音数がすごく多いカデンツァ。このあたりが彼の個性でしょう。
 
第2楽章、弦合奏の冒頭は結構しっかりと弾かれ、対照的に同じテーマを弾くピアノは柔らかな音色。ここでもラツィッチはピアノをよく歌わせます。それに呼応するように弦の歌も美しい。中間の短調では音色を変え、少し影がさすけれど、すぐにオーボエと対話しつつ穏やかな和声へと戻ります。自作カデンツァ、ここでも少し憂いを感じさせるもの。ごく自然に主部へと導いていきます。
 
3楽章ロンド・アレグレットは速めのテンポで推進力があるオーケストラ。一瞬のまを開けて入るピアノは澄んだ音と明るい明快なタッチ。そして各主題の性格付、方向性がはっきりしています。オーケストラがとにかく歯切れがいいですね。ここでもちょっと作り込みすぎのカデンツァ(汗)ですが、聞き応えはあります。最後は勢いのあるオーケストラで終了。痛快ですね。
 
透明な響きのオーケストラが強烈なアタックで歯切れ良い響き、そしてそれに乗って明晰で柔らかく、また時に明確なタッチのピアノ。さらにはかなり凝ったカデンツァ。聞きどころ満載のモーツァルトでありました。これは第1集、2集も聴いてみなければ。