
今晩はSony Classicalから2026年1月16日にリリースされた、エルドビョルグ・ヘムシング(ヴァイオリン)によるJ.S.バッハ作品のアレンジ集《Colors of Bach》を聴きます。
1 パルティータ変奏
原曲:ヴァイオリン・パルティータ第3番 BWV1006「前奏曲」
編曲:ティム・アルホフ
編成:ヴァイオリン+弦楽五重奏+ピアノ
2 「イエスは十二弟子を召し寄せ」変奏
原曲:カンタータ BWV22「Ertönt uns durch dein Güte」
編曲:ティム・アルホフ
編成:ヴァイオリン+弦楽五重奏+ピアノ
3 アヴェ・マリア変奏
原曲:平均律クラヴィーア曲集第1巻 BWV846「前奏曲」
編曲:ティム・アルホフ
編成:ヴァイオリン+弦楽五重奏+ピアノ
4 ト長調メヌエット変奏
原曲:アンナ・マグダレーナ・バッハの音楽帳 BWV Anh.116「メヌエット」
編曲:ヤン=ペーター・クロプフェル
編成:ヴァイオリン+弦楽五重奏+ピアノ
5 イ短調協奏曲変奏
原曲:ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調 BWV1041 第2楽章
編曲:ヤン=ペーター・クロプフェル
編成:ヴァイオリン+弦楽五重奏+ピアノ
6 メランコリー変奏
原曲:ヴァイオリンとオーボエのための協奏曲ハ短調 BWV1060R 第3楽章
編曲:ヤン=ペーター・クロプフェル
編成:ヴァイオリン+アコーディオン+弦楽五重奏+ピアノ
7 心と口と行いと生活にて変奏
原曲:カンタータ BWV147 第6曲
編曲:ヤン=ペーター・クロプフェル
編成:ヴァイオリン+弦楽五重奏+ピアノ
8 エア変奏
原曲:管弦楽組曲第3番 BWV1068「アリア」
編曲:ティム・アルホフ
編成:ヴァイオリン+弦楽
9 ブランデンブルク協奏曲再訪
原曲:ブランデンブルク協奏曲第1番 BWV1046 第1楽章
編曲:ヤルッコ・リーフィマキ
編成:ヴァイオリン+弦楽五重奏+ピアノ
10 「私は御子のゆりかごの前に立つ」BWV469
原曲:BWV469(コラール)
編曲:ヤン=ペーター・クロプフェル
編成:ヴァイオリン+弦楽五重奏+ピアノ
11 ゴルトベルク変奏曲アリア変奏
原曲:ゴルトベルク変奏曲 BWV988「アリア」
編曲:ティム・アルホフ
編成:ヴァイオリン+弦楽五重奏+ピアノ
12 ハ長調前奏曲変奏
原曲:オルガン前奏曲とフーガ BWV553 第1曲
編曲:ティム・アルホフ
編成:ヴァイオリン+弦楽五重奏+ピアノ
13 「時は確かに来た」変奏
原曲:コラール BWV734「Nun freut euch, lieben Christen g’mein」
編曲:ヤルッコ・リーフィマキ
編成:ヴァイオリン+弦楽五重奏+ピアノ
14 ヘ長調インヴェンション変奏
原曲:2声のインヴェンション BWV779
編曲:ヤン=ペーター・クロプフェル
編成:ヴァイオリン+弦楽五重奏
15 オルガン・ソナタ変奏
原曲:オルガン・ソナタ第4番 BWV528 第2楽章
編曲:ティム・アルホフ
編成:ヴァイオリン2+弦楽五重奏
16 「汝の道を委ねよ」変奏
原曲:マタイ受難曲 BWV244 第53番 コラール
編曲:ティム・アルホフ
編成:ヴァイオリン+弦楽五重奏
17 「憐れみ給え、わが神よ」変奏
原曲:マタイ受難曲 BWV244 第47番アリア
編曲:ティム・アルホフ
編成:ヴァイオリン+ヴィオラ+弦楽五重奏+ピアノ
18 「我は汝に呼ばわる、主イエス・キリストよ」変奏
原曲:BWV639
編曲:ティム・アルホフ
編成:ヴァイオリン+チェロ+ピアノ
19 ニ短調協奏曲変奏
原曲:協奏曲 ニ短調 BWV974 第3楽章
編曲:ヤン=ペーター・クロプフェル
編成:ヴァイオリン+弦楽五重奏
20 ヴァイオリン協奏曲第2番ホ長調 第1楽章
原曲:BWV1042
編曲:なし(原曲)
編成:ヴァイオリン+弦楽
21 ヴァイオリン協奏曲第2番ホ長調 第2楽章
同上
編成:同上
22 ヴァイオリン協奏曲第2番ホ長調 第3楽章
同上
編成:同上
23 コラール・アリア変奏
原曲:カンタータ BWV54 第1曲アリア
編曲:ティム・アルホフ
編成:ヴァイオリン+弦楽五重奏
バッハはあらゆる演奏、編曲をしても耐えられる稀有な作曲家。クラシックのアレンジだけではなくて、ジャズやポップスなどでも編曲されていますが、このアルバムはバッハ作品の20曲を素材とし、ティム・アルホフ、ヤン=ペーター・クロプフェル、ヤルッコ・リーフィマキによる新しい編曲を通じて、バッハの音楽に新しい“色彩”を与える独創的な企画。
ヴァイオリン、弦楽五重奏、ピアノ、アコーディオンといった編成によって、原曲の構造と精神を保ちながらも、現代的な響きと新たな表情を導き出しています。アルバム中盤には唯一のオリジナル作品であるBWV1042が置かれ、再解釈の連続の中で音楽的“錨”の役割を果たしていることも印象的です。
演奏しているのはノルウェー出身のヴァイオリニスト、エルドビョルグ・ヘムシング。幼少より国際的キャリアを歩み、レパートリーは古典から現代、そして北欧作品まで幅広い領域に及んでいます。本アルバムでは、編曲者とアンサンブルとの密接な協働を通じ、バッハの音楽に新しい感覚的次元を与えています。共演者であるNorwegian String Quintetは北欧の室内楽界で高い評価を得るアンサンブルで、透明度の高い音色と精密なアンサンブル感に特徴があります。
またピアノとアレンジを中心に担当しているのはティム・アルホフ。ジャズ/クラシック双方に跨るピアニストで、このアルバムでは編曲・ピアノの両面で重要な役割を果たしています。
ティム・アルホフはずっと注目している方で、以前ブログで取り上げました。バッハが好きなんですね。
それから私がお気に入りなのは、グレゴリオ聖歌におしゃれな和声をつけたアレンジ集。あの古い旋律にモダンなハーモニーをつけるとこんなに素敵になるのか、と感激した一枚。
https://classical.music.apple.com/jp/album/1650410657?l=ja-JP
クラシック演奏家からも信頼が厚くて、エジプト出身のソプラノ、ファトマ・サイードのアルバムでもアレンジを担当していました。
他にヤン=ペーター・クロプフェルとヤルッコ・リーフィマキも編曲者として参加し、それぞれ異なる視点からバッハの構造と素材を扱っています。
各曲については、あまり詳しく書くとアレンジの種明かしになってしまうのであまり細かく書きませんが、最初は軽やかでリズミック、色彩豊かな無伴奏ヴァイオリンパルティータのアレンジで、5/8と6/8を行き交う脈動で現代的なグルーヴに仕立てています。前半では舞曲的な躍動や新しい脈動が印象的。
ゴルトベルクのアリアは4/4の一定の拍動によってメロディが浮き立ち、旋律線が新しい光を浴びます。編曲の設計は常に原曲の声部構造への敬意を保ちながらも、音響の重心や進行の流れを軽やかにアレンジしている印象です。
中盤に置かれたBWV244の〈Erbarme dich〉では、原曲の独唱と独奏ヴァイオリンの対話がヴァイオリンとヴィオラに置き換えられ、アリアの親密さと哀切がそのまま別の器楽言語へ移されています。アルホフは自分のアルバムでもマタイを取り上げていましたから、思い入れも深いのでしょう。
《Ich ruf zu dir》ではブゾーニ編にも影響を受けながら、静かな内省を保ちつつ音色が異なる位相へと変換されています。
終盤のBWV974〈Presto〉は運動量の高い再解釈で、モティーフの連鎖と推進力がアルバムの後半を牽引します。
唯一原曲のまま置かれるBWV1042は、中庸のテンポと深い残響の録音が特徴。ヴィヴァルディからの影響を受けつつもバッハ独自の対位法と精緻な編成が明確に示されていますね。再解釈が連続するアルバムの中でバッハのオリジナルならではの美しい対照を作っています。演奏自体は今主流になってきた古楽とは一線を画したモダンな演奏。基本的に弦合奏ではなくて1stヴァイオリンパートと独奏部分は全部ヘムシンク一人でやっていますね。第2楽章のアダージョがよく歌われて特に美しい。第3楽章はとても軽やか。
オリジナル曲をここに配置することで、結果的にバッハ自身の創意と現代の再創造の精神とをうまく結合する役割を果たしています。
アルバムはBWV54に基づく終曲で静謐な瞑想へと着地し、ゆっくりと強度を増しながら吸引力のある終止を迎えます。
録音は広い空間を生かした室内楽収録で、弦の透明感とヴァイオリンの光沢がよく保たれています。ヘムシンクのヴァイオリンを大きめにピックアップし、ピアノやアコーディオンはやや後ろに引っ込み気味で、ヘムシンクを立てているな、というのが感じられる録音。声部が混濁せず定位も良くて配置の見通しが良い点が印象的です。
全体として、バッハの作品に新しい色彩を与えるという企画で楽しめます。どことなく全体的に北欧風の色彩ですね。たまにはガチガチのクラシックじゃなくてこういうのもいいですねぇ、肩肘はらず、ちょっとウィスキーでも舐めながら真冬の寒い夜更けに暖かい部屋の中で聴くのにふさわしいアルバム。
https://open.qobuz.com/album/jwq3620o04opa