
今晩は、2026年10月30日にAlpha Classicsからリリースされた、ピエール・デュムソー指揮、ボルドー・アキテーヌ国立管弦楽団による《Phantoms: French Symphonic Poems(幻影たち:フランスの交響詩集)》を聴いてみました。
19世紀半ばから20世紀初頭にかけてのフランス音楽から、幽霊、魔女、幻想的な狩猟、神話や伝説などを題材にした管弦楽作品を集めたアルバムです。
収録された8曲のうち、私にとって馴染みがある作曲家といえば、グノーとフローラン・シュミットくらいでしょうか。ギローの名前はビゼーの《カルメン》などに関連して知っていますが、その作品をじっくり聴く機会はほとんどありませんでした。
こういう知らない作曲家の知らない作品を聴くのは、実に楽しいですね。今回はブックレットの解説を読み、入手できた作品については楽譜にも目を通しながら、全8曲を聴いてみました。
1.エルネスト・ギロー(1837–1892):《幻想的な狩り》
2.オーギュスタ・オルメス(1847–1903):《ヘーローとレアンドロス》より前奏曲〈キュプリスの誕生〉 *
3.フローラン・シュミット(1870–1958):《幽霊屋敷》作品49
4.マリー・ジャエル(1846–1925):《オシアーヌ》より前奏曲 *
5.シャルル・グノー(1818–1893):歌劇《血まみれの修道女》序曲
6.ガストン・カロー(1864–1920):《キマイラの騎行》
7.ギィ・ロパルツ(1864–1955):《アーサー王子の狩り》
8.シャルル・シルヴェ(1868–1949):《眠れる森の美女》による交響組曲より第3曲〈ウルジェルと小人たち〉
*印は世界初録音
指揮:ピエール・デュムソー
管弦楽:ボルドー・アキテーヌ国立管弦楽団
録音:2025年5月、フランス、ボルドー国立歌劇場オーディトリウム
録音プロデューサー:ロール・カズナーヴ
録音エンジニア:ヴァンサン・モンス
レーベル:Alpha Classics(ALPHA 1284)
収録時間:約77分
まず、このアルバムを指揮しているピエール・デュムソーはフランスの指揮者で、もともとはファゴットを学び、パリ国立高等音楽院で指揮を修めています。2017年のリエージュ国際オペラ指揮者コンクールで入賞し、2022年にはフランスのヴィクトワール・ド・ラ・ミュジークで新設された「期待の指揮者」部門の第1回受賞者となっています。オペラの分野で豊かな経験を持ち、パリ国立歌劇場をはじめヨーロッパ各地で活躍しています。2026〜2027年シーズンからはルーアン・ノルマンディー歌劇場管弦楽団の音楽監督に就任しました。
録音では、ドビュッシー《ペレアスとメリザンド》、オッフェンバック《月世界旅行》など、19世紀から20世紀にかけてのフランス音楽を積極的に取り上げています。今回のような忘れられた作品の復興にも、適任の指揮者なのでしょう。
私のブログでは以下で一度取り上げています。とても微妙な色彩の描き方がうまかった記憶があります。
ボルドー・アキテーヌ国立管弦楽団は、1850年に設立されたサント=セシル協会を前身とする、フランスの伝統あるオーケストラ。100名を超える演奏家を擁し、ボルドー国立歌劇場でのオペラやバレエ、交響曲の演奏会などを中心に活動しています。2024年9月からはジョゼフ・スウェンセンが音楽監督を務めています。
私のブログでは以下で最近取り上げています。いいオケです。
デュムソーは2014年から2016年までこのオーケストラの副指揮者を務め、その後も多くの演奏会やオペラ公演で共演してきました。今回の録音にも、長年の信頼関係が生かされているように思います。
さて、ブックレットを読むと19世紀のフランスでは、従来のバロック・オペラに見られた魔法的な世界に代わって、幽霊、悪魔、精霊、魔女などを扱う幻想的な文学や舞台作品が大きな人気を集めていたとのこと。そして様々な伝説や詩、イギリスの小説、ロマン派の絵画などから影響を受けた音楽が、オペラから器楽へ、さらに自由な形式を持つ交響詩へと広がっていったのですね。
そして、その音楽を特徴づけるのが豊かな管弦楽法。珍しい楽器を用いたり、楽器同士を意外な方法で組み合わせたりすることによって、旋律やリズム以上に音色そのものが強い表現力を持つこともある、と解説されています。
前置きが長くなりました。早速聴いてみます。
1.エルネスト・ギロー《幻想的な狩り》
エルネスト・ギローは1837年、アメリカのニューオーリンズに生まれたフランスの作曲家です。パリ音楽院で学び、1859年にはローマ大賞を受賞しました。
ビゼーの死後、《カルメン》にレチタティーヴォを補筆し、オッフェンバックの《ホフマン物語》の管弦楽化にも携わったことで有名ですね。パリ音楽院ではドビュッシーやデュカスらを教えた人物でもあり、フランス音楽史の重要な位置にいる作曲家です。
《幻想的な狩り》は1886〜1887年に作曲された交響詩で、ヴィクトル・ユーゴーの文章から着想を得ているそうです。
曲はロ短調で始まり、ホルンによる狩猟の信号が重要な役割を果たします。楽譜を見ると、この動機には三全音が含まれ、単純な狩猟の角笛とは違う、不穏な響きが与えられています。
ホルンの信号から激しい騎行の音楽へと進み、中間にはニ長調の抒情的な部分が現れます。そして再び騎行が始まり、最後はロ長調で輝かしく終わるという構成です。
聴いていても、何といってもホルンの活躍が印象的です。
冒頭の狩猟の信号から、弦楽器が細かく動き始め、遠くでホルンが鳴り続けます。途中、弦楽器が美しい和声を奏でる部分もありますが、そこにもホルンの響きが付き纏うように現れます。
音楽が盛り上がってくると、かなり大きくオーケストラを鳴らします。このあたりはまだ後期ロマン派の管弦楽法で、ドビュッシー以降の印象派的な音色の扱いとは違います。
しかし、そうした力強い響きの中にも、ホルンの音色が作り出す幻想的な雰囲気があります。三全音によって不気味さを感じさせるところも面白く、華やかな管弦楽の陰に、何か得体の知れないものが存在しているようです。
2.オーギュスタ・オルメス《ヘーローとレアンドロス》より〈キュプリスの誕生〉
オーギュスタ・オルメスは1847年生まれの女性作曲家。アイルランド系の家庭に生まれ、フランスで活動しました。セザール・フランクに作曲を学び、ワーグナーにも強い関心を持っていました。
交響詩や劇的交響曲、オペラなど大規模な作品を数多く書き、当時は高い評価を受け、自身で台本や詩を書くことも多く、その作品には文学的、劇的な性格が強く表れています。ワーグナー的ですね。
《ヘーローとレアンドロス》は1874〜1875年に作曲された1幕のオペラで、ギリシャ神話の悲恋を題材としています。今回収録された前奏曲〈キュプリスの誕生〉のキュプリスとは、愛と美の女神アプロディーテーの別名です。この前奏曲も、今回が世界初録音ということです。
曲は不穏な雰囲気のチェロから始まります。少し不気味な響きが続いたあと、木管楽器が現れ、ハープのアルペッジョへと移っていきます。そして最初の主題が、今度は柔らかい弦楽器の響きで現れます。フルートとピッコロがユニゾンで旋律を奏でるところが印象的で、その後も木管楽器が次々と音色を引き継いでいきます。
暗い序奏から次第に明るさを増し、主題が異なる楽器によって姿を変えていく音楽です。劇的な高揚もありますが、私には木管楽器の色彩の変化が特に美しく感じられました。
ベルリオーズの時代から受け継がれたフランスの近代的な管弦楽法が、ここにも息づいているのでしょう。まだドビュッシーの世界に到達する前ですが、楽器の組み合わせによって新しい響きを生み出そうとする感覚には、後のフランス音楽につながるものがあるように思います。
3.フローラン・シュミット《幽霊屋敷》作品49
フローラン・シュミットは1870年生まれ。パリ音楽院で学び、1900年にローマ大賞を受賞した作曲家です。《サロメの悲劇》や《詩篇第47番》などで知られ、フランス音楽のなかでも、複雑な和声と重厚な管弦楽法を特徴としています。吹奏楽では《ディオニソスの祭り》が以前よく演奏されたので、ご存知の方も多いでしょう。またオーストリアの作曲家で最近よく演奏されるフランツ・シュミットとは全くの別人ですが、名前がよく似ていて混乱しますね・・・。
《幽霊屋敷》は1904年に完成した交響的練習曲で、エドガー・アラン・ポーの詩《幽霊の宮殿》から着想を得ています。シュミットはマラルメによるフランス語訳を通じてこの詩に接し、そこから受けた幻想的な印象を音楽にしました。
楽曲は長い序奏から始まり、速い主部、抒情的な中間部、主部の再現、そして大きなコーダへと進みます。全体には三全音の関係が組み込まれ、半音階や全音音階も用いられています。主題が次々と変わるように聴こえますが、短い動機を変形しながら構成されていることが、楽譜からわかります。
ここで、管弦楽の音色が明らかに変わります。独特の絵の具を混ぜて、輪郭を朧げにしたような響きです。冒頭からバス・クラリネットの特徴的な音色が現れ、柔らかなオーボエの響きが美しい。いかにもフランス的な音色だと感じます。
大きくテュッティが鳴ったと思うと、突然静まり、不気味な雰囲気に変わります。そしてすぐに別の動機が現れる。音楽の性格が次々に交代しますが、そこには自由なファンタジーがあります。静かな部分ではクラリネットの独奏から旋律が引き継がれ、柔らかな幻想の世界が広がります。やがて金管楽器が鳴り、再び厚い響きとなり、音楽の主題がさまざまに移り変わっていきます。
かなり変化の激しい曲で、オーケストラもよく鳴ります。それでも、音色の混ざり合いによって独特の柔らかさが生まれているところが面白いですね。1904年といえば、ドビュッシーの《海》が完成する前年です。重厚な後期ロマン派の響きを残しながら、音色の扱いには新しい時代の感覚が感じられます。
4.マリー・ジャエル《オシアーヌ》より前奏曲
マリー・ジャエルは1846年生まれのピアニスト、作曲家です。リストやサン=サーンスらと交流し、優れたピアニストとして活躍するとともに、作曲やピアノ演奏法の研究にも取り組みました。彼女はピアノ曲だけでなく、協奏曲や室内楽、管弦楽作品も残しています。
《オシアーヌ》は1879年に書かれた、独唱、合唱と管弦楽のための交響詩です。もともとはジャエル自身がドイツ語で書いた詩に基づく作品で、後にフランス語に翻訳されました。オシアーヌは物語の主人公の名前で、今回収録されたのはその前奏曲。こちらも世界初録音。
オーボエやフルートが静かに響く前奏から始まり、やがて弦楽器のピッツィカートによって速い部分に入りますが、旋律は断片的です。短い動機が次々に現れ、音楽が少しずつ性格を変えていきます。そこへホルンが重なると、ふとリヒャルト・シュトラウスを思わせるような重厚な響きになります。
管弦楽の構成としては、静かな木管の序奏から、ピッツィカートによる動きのある部分へ進み、金管楽器を交えながら次第に音楽が大きく広がっていく流れが印象的です。
とりわけ金管楽器の掛け合いが面白いですね。ホルンが厚い響きを作り、その上でほかの金管楽器や木管楽器が応答する。このあたりでは、ボルドー・アキテーヌ国立管弦楽団のフランス的な色彩を存分に楽しめます。
旋律そのものを追うというより、楽器同士の組み合わせによって変わっていく音色に耳を傾けたくなる作品でした。
5.シャルル・グノー 歌劇《血まみれの修道女》序曲
シャルル・グノーは今回の作曲家のなかでは、もっともよく知られた人物でしょう。
《ファウスト》《ロメオとジュリエット》などのオペラをはじめ、宗教音楽や歌曲でも知られ、19世紀フランス音楽を代表する作曲家です。バッハの《平均律クラヴィーア曲集》第1巻第1番の前奏曲に旋律を付けた《アヴェ・マリア》が一番知られているでしょうか。
《血まみれの修道女》は1854年にパリ・オペラ座で初演されたオペラです。
それにしても、すごい題名ですね。物語は、恋人と駆け落ちしようとした若者が、恋人に変装した女性だと思って誓いを交わした相手が、実は修道女の亡霊だったというものです。この亡霊が若者に付き纏い、悲劇的な物語が展開します。
序曲は、静かな弦楽器による独特の雰囲気から始まります。不気味というほどではありませんが、神秘的で、どこか謎めいた響きです。やがて同じ音を繰り返すパッセージが現れ、音楽が動き始めます。
途中からは英雄的な行進曲のような音楽も現れます。このあたりは、いかにもオペラの序曲という感じがします。性格の異なるエピソードが次々に現れ、静かな場面から力強い音楽へと変わっていきます。
楽曲の構成も、神秘的な序奏から同音反復による推進力を持つ部分へ、さらに行進曲的な主題や劇的な高揚へと進む、舞台の情景を予感させるものです。
1854年の作品ですから、今回のアルバムではもっとも古い時代に属します。シュミットのように複雑な音色の混合によって幻想を描くのではなく、性格の異なる楽想の対比によって劇的な世界を作り出しています。
グノーのオペラ作曲家としての力量が感じられる序曲でした。
6.ガストン・カロー《キマイラの騎行》
ガストン・カローは1864年生まれ。パリ音楽院でマスネに学び、1890年にローマ大賞を受賞した作曲家です。ギロー、シルヴェ、シュミットも受賞していますから、このアルバムにはローマ大賞の受賞者が多いですね。作曲活動のほか、音楽評論家としても活躍しました。
《キマイラの騎行》は、今回のアルバムでもっとも捉えどころのない作品かもしれません。
キマイラとは、ギリシャ神話に登場する怪物ですが、フランス語の chimère には、幻想や空想、実現しそうにない理想といった意味もあります。この曲に具体的な物語があるのかどうか、調べてみても、はっきりとした筋書きはわかりませんでした。
大きな和音のあと、不気味な雰囲気が広がります。ヴィオラの独奏などが印象的で、主部に入ると弦楽器の短い刻みの上を木管楽器が動きます。このあたりは印象派の音楽とは違い、もっと輪郭のはっきりした響きです。しかし、音楽がどこへ向かっているのか、なかなかつかめません。
感動的な旋律が現れたと思うと、突然和声が変化して短調になったり、また違う表情の音楽が始まったりします。ワーグナーの《ワルキューレの騎行》のような勇ましさを持つ騎行ではなく、喜び、悲しみ、不安、憧れ。さまざまな感情が混じり合っているように感じられます。
しかも、その変化は主題の展開というより、和声の変化によって生まれているようです。横へ流れる旋律よりも、縦に重なる和音の色彩が次々と変わっていく。その色彩が混ざり合い、音楽の表情を変えていきます。
少々まとまりがないようにも感じられますが、美しいところも多々あります。後半になると音楽は次第に不気味な雰囲気になり、最後はフルートの独奏を経て、静かに終わります。
何かの物語があるのかもしれませんが、さっぱりわかりません(笑)。
しかし、そこがいいのかもしれませんね。音楽の意味をすべて理解する必要はなく、次々と変化する響きに身を委ねる楽しさがあります。今回のアルバムでも、特に不思議な魅力を持つ作品でした。
7.ギィ・ロパルツ《アーサー王子の狩り》
ギィ・ロパルツは1864年生まれ。パリ音楽院で学び、セザール・フランクから大きな影響を受けた作曲家です。ブルターニュ地方の伝説や風土に深い関心を持ち、交響曲や室内楽、声楽曲など多くの作品を残しました。
《アーサー王子の狩り》は1912年に作曲された交響的練習曲で、ブルターニュの詩人オーギュスト・ブリズーの詩から着想を得ています。
スコアの冒頭には、その詩の一部が引用されています。
夜が彼らを包み、あたりが闇に沈んだころ、
彼らは深い谷に覆いかぶさる茂みを見た。
丘の斜面には、まるで小人たちに倒された巨人のように、
巨大な丸い岩がいくつも横たわっていた。
深い谷間では泉がせせらぎ、
そこには鐘があり、銀色に輝く美しい湖があった。
まるで魔法にかけられた館のほとりにいるようだった。
そのとき、角笛が三度鳴り響いた!
アーサーよ、ウェールズの王子よ、
今宵、象牙の角笛の響きとともに狩りをしているのは、
おまえの黒い猟犬の群れなのか。
アーサー王子よ、そこにいるのはおまえなのか。
茂みをかき分け、馬を駆っているのは彼なのか。
あの偉大な角笛の名手が、ユエルゴアへ帰ってきたのか。
アーサーよ、私たちはおまえを待っている。
今もなお、おまえを待ち続けているのだ!
夜の森、谷に横たわる巨石、魔法にかけられた館、遠くから響く角笛。そして伝説のアーサー王子が呼びかけられます。
曲は7/4拍子のゆっくりした序奏から始まり、弱音器を付けた弦楽器と低弦の動き、細かな反復音型によって、神秘的な雰囲気が生まれます。その後、3/4拍子の速い主部に入り、ホルンが狩猟の主題を奏でます。楽譜には、この主題が民謡由来のものであることが記されています。音楽は対位法的に発展し、やがて雄大な頂点を築きますが、最後には再び静かな7/4拍子の世界へ戻ります。
聴いていて、冒頭から森の奥深くに入り込むような感覚があります。
弦楽器のトレモロと低弦の動き。朝の情景かと思いましたが、詩を読むと夜なのですね。いずれにしても、深い森のなかに何かが潜んでいるような雰囲気です。
クラリネットを合図に音楽が動き始め、やがて緊迫したホルンが勇壮な主題を奏でます。アーサー王子の登場でしょうか。王子が疾走し、動物たちが逃げていく。さまざまな情景が浮かび上がります。
ちょっとワーグナーの《ジークフリート》を思わせるところもありますね。森のざわめき、角笛の響き、英雄的な主題。ただし、こちらのほうがもっと明るく、軽快な色彩を感じます。
音楽は次第に雄大になり、オーケストラ全体が大きく鳴り響きますが、最後は静かになります。狩猟が終わったというより、目の前に浮かんでいた情景が、次第に遠のいていくようです。
楽譜を見ると、最後には冒頭と同じ7/4拍子に戻っています。幻想的な狩猟が、再び伝説の世界へ消えていくような終結です。
最初のギロー《幻想的な狩り》とは、同じ狩猟を題材にしながら、まったく異なる余韻を持つ作品でした。
8.シャルル・シルヴェ《眠れる森の美女》より〈ウルジェルと小人たち〉
シャルル・シルヴェは1868年生まれ。パリ音楽院でマスネに学び、1891年にローマ大賞を受賞しました。オペラや管弦楽作品を残し、後にはパリ音楽院で和声を教えた作曲家です。
《眠れる森の美女》はペローの童話をもとにした4幕のオペラで、1902年にマルセイユで初演されました。
今回収録された〈ウルジェルと小人たち〉は、オペラから編まれた交響組曲の第3曲です。ウルジェルは呪いをかける妖精で、この音楽は彼女と小人たちの幻想的な世界を描いています。
曲はいきなり強烈なテュッティで始まります。これはびっくりしますね。ところが、その響きがすぐに静まり、木管楽器やヴァイオリンによる細かな音型が動き始めます。
楽譜では、冒頭の大きな和音のあと、3/8拍子の Vif et léger(生き生きと軽やかに)となり、クラリネットから軽快な主題が始まります。その後も短い音型がフルートやヴァイオリンへと受け渡され、途中にはハープや弦楽器による柔らかな部分も現れます。まるで交響曲のスケルツォのような雰囲気です。あるいはメンデルスゾーンの《夏の夜の夢》でしょうか。小人や妖精が飛び回るような、軽やかで細かな動きが続きます。
ただし、その背景には息の長い旋律も現れます。細かな音型が動く一方で、別の楽器が長く歌う。この重なりが面白いですね。
ここでもホルン・セクションが活躍します。ホルンが和声を混ぜ合わせるように響き、木管や弦楽器の細かな動きに厚みを加えていきます。
基本的には速いパッセージを中心にした音楽で、最後は加速しながら一気に終わります。
短い作品ですが、管弦楽の色彩とリズムの面白さが凝縮されています。今回の幻想的な作品集を締めくくるには、実に楽しい一曲でした。
さて、8曲を通して聴いて、改めてボルドー・アキテーヌ国立管弦楽団の音色の美しさが印象に残りました。それは以前聴いた《展覧会の絵》でもそうなのですが、全体に明るく透明な響きです。
弦楽器の音色は明るく、全合奏になっても混濁しません。金管楽器もよく鳴り、オーケストラ全体として十分な迫力があります。しかし、音の厚みを前面に出すのではなく、どこか細身で繊細な感触があります。フォルテになっても、その繊細さが失われないところが特徴ですね。
もちろん、軽さだけではありません。音楽が深刻になる部分では、十分な深みもあります。
そして、今回の8曲ではホルンが実によく活躍しますね。狩猟の角笛、幻想的な遠い響き、重厚な和声、英雄的な主題。ホルンは作品ごとにさまざまな役割を担っています。木管楽器も同様で、オーボエやクラリネット、フルートが次々に美しい色彩を聴かせてくれます。
デュムソーの指揮も、これらの知られざる作品をよくまとめていると思います。音楽の性格が頻繁に変わる作品ばかりですが、それぞれの場面を自然につなぎ、管弦楽の魅力を十分に引き出しています。
録音はボルドー国立歌劇場のオーディトリウムで収録されたもので、ホールの残響が美しく取り入れられています。楽器の細かな動きはクリアに聴こえ、強奏になっても響きが濁りません。しかし、単にリアルな音を収録しただけではなく、そこには温かさと柔らかさがあります。
この柔らかな響きがオーケストラ本来の個性なのか、録音によるものなのか、あるいは両者が組み合わさったものなのかはわかりませんが、このアルバム全体に共通する美しさであることは確かです。
そして、このアルバムの音色のパレットは、決して原色をギラギラさせません。一つ一つの楽器の色彩は明瞭でありながら、互いに混ざり合い、あくまで包み込むような柔らかさがあります。これこそが、フランスの管弦楽音楽の色彩なのだろうと思います。
こうして全8曲を聴いてみると、19世紀から20世紀初頭にかけてのフランス音楽には、まだまだ知らない世界が広がっていることを実感します。
これらの作品には、一度聴いただけで覚えられるような有名な旋律が次々に現れるわけではありません。けれども、管弦楽の音色が変わり、和声が突然違う方向へ進み、次々と新しい情景が現れます。それぞれの作曲家が、まったく異なる方法で幻想的な世界を描いています。
なかには物語の意味がよくわからない作品もありますが、それでも音楽の中には、聴き手のイマジネーションを刺激する何かがあります。知らない曲だからこそ、次にどんな音楽が現れるのか予想できない。その楽しさがありますね。
いつも同じ名曲ばかり聴いているより、こうして知られざる作曲家の音楽に触れるのもいいものです。今回は、ボルドー・アキテーヌ国立管弦楽団の明るく柔らかな響きと、美しい録音によって、その楽しさがいっそう深まったアルバムでありました。
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