
今晩は名ピアニスト、スティーブン・ハフが作曲した作品集を聴きます。ハフといえばハイペリオンの看板ピアニスト。ハイペリオンレーベルがストリーミングできる用になってまず聴いたピアニストです。その彼が作曲した作品を集めた珍しい1枚が今週リリースされました。
プログラムは以下の通り。
ピアノ協奏曲『昨日の世界』 (2023)
① プレリュード – カデンツァ
② ワルツ・ヴァリエーション
③ タランテラ・アッパッショナータ
ノスタルジック・ソナチネ (2019)
④ ダンバンクからの道
⑤ ダムのそばのベンチ
⑥ 十字架での集い
パルティータ (2019)
⑦ 序曲
⑧ カプリッチョ
⑨ カンシオンとダンサ I
⑩ カンシオンとダンサ II
⑪ トッカータ
全体を聴くととても聴きやすい、英国の20世紀前半から半ばくらいまでの作品のよう。ハフ自身もピアノ協奏曲に「昨日の世界」と名付けているくらいなので、今までの西洋音楽の積み重ねの上に作曲したように思います。奇抜さとかは全くないですね。
ピアノ協奏曲のバックはサー・マーク・エルダー(指揮)ハレ管弦楽団。この曲はやっぱりコロナ禍の時にか書かれたとのこと。演奏会がどんどんキャンセルされる中、映画音楽のオファーがあってそのスケッチが協奏曲の素材になったとのこと。こんなこともあって、作風はとても耳に優しい映画音楽風な部分も聞けます。ピアノはハフの暖かいタッチとバランスの良さで自分の作品を美しく弾いていて、バックのエルダー指揮ハレ管弦楽団もいかにも英国のオーケストラの音がしていますね。この前この組み合わせでエルガーのシンフォニー2曲聴きましたが、非常に英国的。こういう英国調のアルバム、大好きです。イギリス音楽には若い頃から非常に惹かれるものがあって、CD時代には随分いろいろ買い漁りました。
まずはピアノ協奏曲。第1楽章はプレリュード。弦楽器と木管から始まりますが、五音階調の優しいメロディとクラリネットとハープによる分散和音的な旋律の2つが提示されます。調をうつろいながらもクレッシェンドしていく様は映画的な響きで、これからダウントン・アビーでも始まるんではないかという雰囲気。録音は結構しっかり撮られていてオケの細かい内声聞こえます。盛り上がったところでピアノソロのカデンツァ。低音から高音までムラなく音を使いながら変化のあるフレーズ、ピアノの音色が美しい。さすがはハフですね、ピアニストの作った協奏曲です。レチタティーヴォのような感じでかなり自由で長いピアノ独奏が進みます。タッチとしてはソフトで現代曲とは違いますね。
2楽章はワルツ。とても親しみやすい雰囲気で、甘く少しユーモラスでおしゃれな感じ。これはビル・エヴァンスのワルツ・フォー・デビーへのオマージュのようで軽いジャズの香りも。映画の次のシーンになったっていう感覚。1楽章のテーマをもとにした7つの変奏曲からなっていますが、さまざまな感情を交錯させつつも聴きやすい作品ですね。やがて音楽は緊張感を増してグロッケンが輝かしく鳴ってクライマックスを迎えたまま第3楽章へ。タランテラのリズムで情熱的、ピアノの超絶技巧が目立ち、パウゼの後壮大なグランディオーソでクライマックス。ファンファーレや急速なスケールが交互に出て壮大な音響世界を築かれ、トランペットのソロでテーマが奏され、再びタランテラのリズムがピアノで奏されます。特にオーケストラはかなり難しそうなんですが、確かに前衛的な部分は全くなくて、過去の世界から受けついだ音楽の遺産を音楽語法に使うとともに、古き良き音楽の時代を懐かしく思い起こすような面もあるかも。これは気に入りました。
ソナチナ・ノスタルジカはやはり郷愁に満ちたピアノ独奏作品。1曲目はダンバンクからの道、というタイトルですが、素敵な小道を歩いた記憶。ダムのそばのベンチも気持ちの良い爽やかな風が顔にあたってっくるような、ダムの静かな水面が落ち着いて樹々を投影しているようなイメージ。十字架での集いは速く細かい音で構成された、街の人々の集いや温書く活気のある雰囲気を捉えた作品。
パルティータはバロック時代の形式のパロディでしょうか、付点のリズムの序曲がその名残を感じさせつつも、舞曲的な雰囲気もある作品。バッハのパルティータを意識しているかも。中間部は短い音と少し抒情的な雰囲気から再び付点リズムの前半に戻ります。