クラシックとオーディオの日々

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ザ・ジェズアルド・シックスとマチルダ・ロイド(トランペット)による《輝ける暁》

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今晩は、ハイペリオン・レーベルから8月1日にリリースされた、オワイン・パーク指揮、ザ・ジェズアルド・シックスと、トランペット奏者マチルダ・ロイドによる《輝ける暁》と題された声楽アンサンブルのアルバムを聴きます。
ザ・ジェズアルド・シックスは、英国の最高峰の男声声楽アンサンブル。2014年にケンブリッジで、作曲《聖土曜日のための暗黒の応答(Tenebrae Responsories)》を演奏するために結成されました。以来、英国のみならず国際的にも活躍しています。昨年には初の来日公演も行われましたので、ご覧になった方もいらっしゃるでしょう。
私はこのような英国のヴォーカルアンザンブルが大好きで、いろいろ聴いていますが、このアンザンブルはそれらの中でも傑出しています。
このアルバムは「光」をテーマに、音楽のさまざまな側面を探る内容。ルネサンスから現代までの作品が収められています。
そして大きな特徴は、声楽アンサンブルと共にトランペットが重要な役割を担っていること。ここで演奏しているのはマチルダ・ロイド。英国の女性トランペット奏者で、すでにシャンドスなどから何枚もアルバムをリリースしています。そして今年の秋には来日公演も予定されていますね!

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早速聴いてみます。まず驚かされるのは、信じられないほど美しく完璧な声のハーモニー。イギリスは教会合唱の伝統があり、少年時代からその響きの中で育まれてきたのでしょう。溶けてしまいそうな純正なハーモニー。そして、そこに非常にマチルダの柔らかい音色のトランペットが加わります。
このような男声アンサンブルは、まさに英国ならでは。少年合唱団での経験と、それに包まれた中で育った背景があってこそ可能になる響きです。日本ではこのようなスタイルのアンサンブルは、ほとんど見られないのではないでしょうか。
今晩はApple TVを使って、Apple Musicのドルビー・アトモスで聴いていますが、長い残響が部屋中に満ちて、まるで教会の中央で聴いているかのよう。包み込まれるような歌声の中に、天から降ってくるようなトランペットの音色。この響きだけでも感動的です。
男声アンサンブルとトランペットの組み合わせは、これまでにないものでありながら、見事に調和しています。男性の声とトランペットは、こうして聴くと非常によく似ています。輝かしさもあれば、ソフトな一面もある。トランペットが、まるで声楽の一パートのように響いています。
収録曲は、現代作品のほか、トマス・タリス、ヒルデガルト・フォン・ビンゲン、ロバート・ホワイトといったルネサンスや中世の作品が並びます。現代作品とはいえ、いずれも和声的で美しい曲ばかり。題材は聖書に基づくものが多く、歌詞には夜明けや星空など、光の要素が織り込まれています。そこには古代から現代に至るまでの「光」のさまざまな姿が映し出されています。
少し順番で紹介します。
1曲目はアレク・ロス(1948年生)《夜の祈り》。就寝前の祈りのラテン語典礼文による瞑想的な作品。最初は声楽がラテン語と英語の混じったテキストを歌い、そこに天の声のようなトランペットが加わります。奇跡のような美しさ。
2曲目は英国のルネサンスの作曲家、トマス・タリス《光より生まれし光》。イエスを「光」として静かに称える美しい作品。この曲ではトランペットは加わりませんが、ザ・ジェズアルド・シックスの演奏は、鳥肌が立つほどのハーモニーで聴く者を魅了します。
3曲目はエレノア・デイリー(1955年生)《祖母なる月》。カナダ・ブリティッシュコロンビア州の小さな島に暮らすミクマク族の詩人による詩に基づく作品。満月の夜の静寂と安らぎ、自然の美しさを見事に表現しています。不協和音が時折効果的に使われながらも、基本的にはシラブル(音節)でハモリ続ける構成。最後は「we’lalin(ありがとう)」というミクマク語で終わります。
4曲目はデボラ・ブリチャード(1977年生)《その光》『ヨハネの黙示録』の一節に基づく詩による瞑想的な作品。トランペットも加わりクライマックスを迎えますが、後半はミュートを使って変化をつけています。感動的な一曲。
5曲目はサー・ジェイムズ・マクミラン(1959年生)《輝ける暁》。アルバムのタイトルにもなっている作品で、救い主の到来を待ち望む内容。現代の作品でありながらルネサンスの声楽曲のような趣。トランペットは入りませんが、2声で歌われる部分との対比が見事。
6曲目は再びタリスによるモテット。最上声部をトランペットが担当しているのがユニークです。声のアンサンブルと違和感なく溶け合い、美しく響いています。
全部紹介すると長くなるのでこのあたりにしますが、このような作品がアルバム全体を通して15曲続きます。どの曲も根底には深い祈りが感じられます。
中でも異彩を放つのが、中世の女性作曲家ヒルデガルト・フォン・ビンゲンによる《おお、最も栄光ある方よ》。単旋律がテノールのソロで歌われ、この曲集の中でもとりわけ際立っています。
また、ジュディス・ビンガム(1952年生)《ゴーストの登場》は、シェイクスピアの『ハムレット』からの一節をもとに、語りとトランペット・ソロを組み合わせた作品。ハムレットの亡霊の登場や、父を殺した叔父クローディアスの罪の告白を描き、トランペットが現代的かつ極端な音域で演奏されるなど、マチルダ・ロイドのテクニックが光ります。
さらにこのアンサンブルの指揮者、オワイン・パークの作品《夏の夜》も収録。そよ風に揺れる夏の夜の情景と、郷愁を誘うような心の引力を描いています。
最後は、ジェフリー・バージョン(1941–2010)《主よ、今こそ》。テノール・ソロとトランペットが交互に応答し合い、すべての人を照らす「光」の救い主を静かに称えながら、アルバムを締めくくります。
とにかく美しい。まさに「天国の音楽」と言ってよいでしょう。そしてドルビー・アトモスによって、私の狭い部屋にいながら、広大な教会の中で素晴らしい残響の中に浸っているような錯覚に陥らせてくれました。

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