
今晩は、Brilliant Classics レーベルから 2025年12月29日 にリリースされた、フランチェスコ・グッジョーラ(ピッコロ)とアンサンブル・デッラ・オルケストラ・ファルネジアーナの演奏による、アントニオ・ヴィヴァルディ 作曲の《ヴィヴァルディ:ピッコロ協奏曲集》を聴きます。
収録曲は以下の通りです。
ピッコロ協奏曲 ハ長調 RV444
第2楽章:ラルゴ
ピッコロ協奏曲 イ短調 RV445
第1楽章:アレグロ
第2楽章:ラルゲット
第3楽章:アレグロ
ピッコロ(フルート)協奏曲 ニ長調 RV428《イル・ガルデリーノ(ゴシキヒワ)》
第1楽章:アレグロ
第2楽章:カンタービレ
第3楽章:アレグロ
ピッコロ(フルート)協奏曲 ト短調 RV439《夜(ラ・ノッテ)》
第1楽章:ラルゴ
第2楽章:幻想(ファンタズミ) プレストとラルゴ
第3楽章:プレスト
第4楽章:眠り(イル・ソンノ) ラルゴ
第5楽章:アレグロ
ピッコロ(フルート)協奏曲 ト長調 RV435
第1楽章:アレグロ
第2楽章:ラルゴ
第3楽章:アレグロ
ピッコロ協奏曲 ハ長調 RV443
第1楽章:アレグロ
第2楽章:ラルゴ
演奏者
フランチェスコ・グッジョーラ(ピッコロ)
ルチア・ザノーニ、ガブリエーレ・スキアーヴィ(ヴァイオリン)
マルチェッロ・スキアーヴィ(ヴィオラ)
ジャンルカ・ムッツォロン(チェロ)
ピエルマリオ・ムレッリ(コントラバス)
フランツ・シルヴェストリ(チェンバロ)
ピッコロもリコーダーと同様、私にとっては思い出深い楽器。実は私のハンドルはpicolistはピッコロから取られています。ブログを作るときにpiccolistと打つべきところ、適当に打っていたらcが一個抜けていたまま登録してしまって(笑)そのままそれを使っています。
学生時代はほぼ全ての合奏、吹奏楽、オーケストラをピッコロ担当でした。かなり真面目にピッコロ奏者として生きていこうと思っていた時期もありました。ピッコロはあんなに小さい楽器なのに、全オーケストラでテュッティやっても抜けて聞こえる。そして管弦楽の最高音ということで、その倍音構成の音色の決め手になると言って良い楽器。音量は凄まじくて、演奏した後は大体2〜3日耳鳴りが治まりませんでした。絶対に耳を痛めるので、今は楽器用のいい耳栓も出ているから全てのピッコロ奏者は使うべきですね。私が若い頃はそんな発想がなかったので、だいぶ耳をやられたのではないかと思います。
さてここで取り上げられているヴィヴァルディのピッコロ協奏曲は、本来はソプラニーノ・リコーダーで吹かれたと考えられていますが、技術的にはかなり難しいのではないかしら。解説によると修道院の女子にすごいうまい子がいたのではとか、今は大体ピッコロで演奏されますね。私は有名なハ長調RV443の協奏曲は弦楽オケとかなりの回数吹きました。
ピッコロは小さい木管楽器なので、管内に水滴が溜まりやすいんです。そしてその水滴は細い管の中でピッコロの音孔をすぐ塞いでしまうので、ピッコロ奏者はいつもそれを気にしながら管内を掃除しながら吹いていますね。オーボエやクラリネットもそうですが。
それで学生の頃の本番でピッコロ協奏曲をフルートオーケストラを伴奏に吹いたとき、一番最後に決めるべきドの音が水滴のためにシになってしまって、ハ長調の協奏曲なのにシで終わるという(汗)みたいなこともありましたっけ・・・。
さて、ここで演奏しているピッコロ奏者のフランチェスコ・グッジョーラは、2018年よりミラノ・スカラ座歌劇場管弦楽団およびスカラ座フィルハーモニー管弦楽団のソロ・ピッコロ奏者を務め、オペラと交響曲の最前線で培った経験を背景に、ピッコロという楽器の可能性を追求している方。初めて聴きます。共演するアンサンブル・デッラ・オルケストラ・ファルネジアーナは、スカラ座管弦楽団のメンバーとゲストによる編成で、通奏低音を含めた柔軟なアンサンブルが特徴です。
RV444の第1楽章は、冒頭から独奏が高音域で鋭く切り込み、短い動機を積み重ねながら推進していきます。音域を大きく跳躍するパッセージが多く、フラウティーノ特有の明るさと俊敏さが前面に出ますが、グッジョーラは音の粒立ちを揃え、単なる華やかさに終わらせません。音色のコントロールが素晴らしい。ピッコロの難しいところはピアニッシモが出にくいところ。ここを素晴らしくニュアンスがある音色で吹いていますね。特に高音の細くて繊細な音は出すのが至難の技ですがさすが素晴らしい音色です。
第2楽章ラルゴでは、ピチカートの伴奏がとても素敵で、その上に乗る独奏の旋律線が際立ちます。息の長さと音程の安定が要求される楽章で、歌うようなフレージングがオペラのオーケストラプレイヤーならではの情感を帯びます。
終楽章では再び活発な動きが戻り、細かい音型が連続しますが、テンポの速さの中でも構造感が明確に保たれています。かなり難しいパッセージがあるんですが、見事に吹いていますね。
イ短調のRV445は全曲中でも技巧的で短調の深みのある作品です。第1楽章では三連音や分散和音が連続し、楽器の全音域を縦横に使った書法が続きます。グッジョーラはスピード感を保ちながら、音の輪郭を曖昧にせず、緊張感の持続に成功しています。そして素晴らしい高音のピアニッシモと分散和音のテクニック。
第2楽章ラルゲットは、弦の伴奏の上に静かに旋律が浮かび上がり、ほとんどアリアのような性格を持ちます。ここでは高音の張りよりも柔らかさが重視され、高音にいくにしたがって弱音に持っていくコントロールのうまさが絶品。ピッコロの音色の別の側面が示されます。
終楽章では再び切迫感が戻り、短いモティーフの反復と推進力によって、全曲を劇的に締めくくります。
《ごしきひわ》RV428は元々フルートの協奏曲ですね。これまた弦合奏と何度演奏したかわからないくらいの曲ですが、ピッコロで吹いているのを聴くのは初めて。こういう手もあったか。
題材となっている鳥はアトリ科の顔が赤くて羽根に黄色いアクセントのある鳥ですが、日本にはいないのでみたことも声を聞いたこともないのですが、第1楽章では、冒頭から小鳥のさえずりを模した装飾的な音型が現れます。カデンツァ風の自由な動きではまさに鳥が囀っている描写。ここは独奏者の表現力が試される楽章ですが、グッジョーラは写実性と音楽的流れのバランスを巧みに取っています。
第2楽章カンタービレでは、標題性は後景に退き、純粋に旋律美が追求されます。音をつなぐレガートが重要で、ここでもオペラ劇場で鍛えたピッコロの歌心が前面に出ます。第3楽章では再び活発な動きが戻り、鳥の軽快な動きが生き生きと描かれます。決して甲高くならない音色が素晴らしい。
《夜》RV439は、やはりフルート協奏曲として知られた曲で、これも何度か演奏したことがあります。これをピッコロでやるのはちょっと驚き。標題音楽として特に凝った構成を持つ作品で、いくつかの版がありますね。第1楽章ラルゴでは、不安を孕んだ静けさが支配し、低弦の和声の上に不穏な旋律が漂います。第2楽章《幻想》では、急速な音型と突然の緩急が交錯し、幻想や悪夢の断片が次々に現れるかのようです。第3楽章プレストは短く激しく、切迫した動きが感情の高まりを表します。第4楽章《イル・ソンノ》は、調性は違いますが、有名なヴィヴァルディの「四季」の「秋」の第2楽章と同じ曲。時間が停止したかのように音楽が静まり、長く保持される音が不安定な眠りを描写します。かなり長いブレスコントロールと音程の正確さが必要な曲ですが、グッジョーラはグッジョブ!
終楽章では一転して力強い動きが戻り、クレッシェンド・ディみぬエンドを効果的に使って演奏しています。夜の不安を振り払うかのように曲が閉じられます。ピッコロで聴くとまたこの曲のイメージが変わりますね。
RV435も原曲はフルート協奏曲。フルートコンチェルト集作品10のために新たに書かれたとされる協奏曲で、標題性よりも形式の明快さが際立ちます。これはピッコロに合う曲かも。第1楽章は均整の取れた主題と対話的な独奏・合奏のやり取りが特徴で、ピッコロの明るい音色が自然に溶け込みます。第2楽章ラルゴでは、旋律の簡潔さが際立ち、過度な装飾を避けた内省的な表現が印象的ですね。終楽章では舞曲的なリズム感が前面に出て、軽快に全体を締めくくります。
もっとも有名なピッコロ協奏曲RV443は、RV444と対をなすような性格を持ちますが、より伸びやかな旋律線が特徴。私が何度も演奏してきた曲ですが、いやー、グッジョーラ、実にうまい。第1楽章では音域を活かした明快な書法が続き、独奏の存在感が強調されます。第2楽章ラルゴは特に素晴らしくて、グッジョーラはピッコロが持つ抒情性と歌謡性を最大限に引き出しています。高音のピアニッシモの美しさと言ったら!そしてここではこれまで割合と引っ込んでいたチェンバロも即興的に加わってきます。終楽章では再び快速な動きが戻り、技巧と遊び心、そして音楽性が高い次元で融合しています。
全体にあまり残響を多く取り入れすぎず、しかし直接音でもないバランスの良い録音ですね。
全体を通してこのアルバムはヴィヴァルディのピッコロ協奏曲が、超絶技巧的であるとともにオペラ的歌謡性と描写性、そして深い抒情性を備えた音楽であることをスカラ座の第一線で活躍する奏者ならではの実践的な視点が、各楽章の性格を鮮やかに浮かび上がらせています。ピッコロという楽器の表現領域を再認識させてくれた一枚でありました。