
この曲は、グレン・グールドの《ゴルトベルク変奏曲》とともに、最初に買ったCDの一つ。演奏はシャルル・デュトワ指揮、モントリオール交響楽団。デッカの独特な色の濃い音色と、繊細で透明感のある響き、華やかに広がる音の波が素晴らしく、何度も聴いた記憶があります。その後、第2組曲のこの組み合わせの実演も聴きました。フルートのティモシー・ハッチンスが圧倒的に美しく、流れるような音色が印象的でした。デュトワのサインをもらえたのも、いい思い出です。
昨年は、シルヴァン・カンブルラン指揮、音楽大学フェスティバルオーケストラの演奏も聴きました。国内の音楽大学から選ばれた優秀な学生たちによるオーケストラで、技術的な精度の高さに驚かされました。もしかすると、プロのオーケストラよりもうまいかもしれません。チケット安いのでコスパがいいコンサートでオススメ。
さて、実は《ダフニスとクロエ》は色々聴いてきたんですが、ストーリーは昔からどうもよくわかりませんでした。ギリシャ神話が題材ですが、神々と人間の関係が複雑で、パンやらよくわからない神様やら海賊まで出てきて、音楽に対応する場面の因果関係がつかみにくいのです。パッパーノはオペラ指揮者なので、ドラマティックな表現でストーリーを明確にしてくれるのではないかと期待して聴きました。
録音のダイナミックレンジは驚異的に広く、冒頭はほとんど聞こえないほど静かなのに、クライマックスでは巨大な音響が押し寄せます。スピーカーで聴くと、近所迷惑になりそうなほど。録音も優秀で、各楽器がクリアに分離し、点描画のように精密な音が積み重なって壮大な響きを作り上げています。
ブックレットの解説を頼りに、ストーリーを追いながら聴きましたが、具体的な場面を完全に把握するのは難しいと感じました。笑い声の描写などははっきりとわかりますが、それ以外は印象派的なぼんやりとした表現が多く、場面の輪郭がやや曖昧です。これはこの作品の特徴でもありますが、バレエと合わせて鑑賞すると、より理解しやすくなるでしょうけれど、なかなか機会がないですね。
オーケストラの演奏は素晴らしく、全体のバランスや音響設計にはパッパーノの手腕が光ります。そして、やはりフルート首席のガレス・デイヴィスが秀逸でした。繊細で透明感のある音色が、この作品にぴったりと合っています。この人はナクソスからニールセンのフルート協奏曲も出していますね。今度聴いてみよう。
第三部「夜明け」の場面では、点描的な音の描写が少しずつ積み重なり、次第に光が満ちていく感覚が見事に表現されていました。
その後、フルート・ソロによる「パンとシリンクスの物語」が始まります。ギリシャ神話では、パン神がニンフのシリンクスを追い詰めますが、彼女は葦の姿に変わり、それをパンが笛にして嘆きの旋律を奏でるという話です。ドビュッシーの《シリンクス》もこの物語を題材にしたフルート独奏曲で、フルーティストにとって特別な作品です。ドビュッシーの《シリンクス》が短歌的な抒情性をもつとすれば、ラヴェルの《ダフニスとクロエ》は壮大な叙事詩のような作品。どちらも異なる魅力をもち、それぞれ素晴らしい音楽です。
合唱は、英国の名門テネブレ。40人ほどの編成ですが、一人一人の声が分離して聞こえるほどクリアで、完璧なアンサンブルでした。透明感のある合唱が、作品の神秘的な雰囲気をさらに引き立てていました。
物語を完全に理解するには、やはりバレエの舞台を観たほうがよいのかもしれません。しかし、今回のパッパーノ指揮ロンドン交響楽団の演奏は、場面の大きな流れを明確に描き出し、音楽だけでもストーリーが伝わってくるように感じました。
また、このコンビによる別の作品もぜひ聴いてみたいと思います。