クラシックとオーディオの日々

毎日聴いている音楽の記録です。

ガーディナーのブラームス交響曲全集

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今晩は、エリオット・ガーディナー指揮、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団によるブラームス交響曲全集を聴きます。
ガーディナー、ブックレットの写真を見るとすっかりお年を召されましたね。私はピリオド楽器による演奏の黎明期から聴いてきた世代なので、若かりし頃のイングリッシュ・ソロイスツ時代から、彼のさまざまな演奏を聴いてきました。こうやって写真を見ると、お互いにずいぶん歳を重ねてきたものだな、と感じます。今年で82歳になられるのですね……。


最初に聴いたのは忘れてしまいましたが、バッハの管弦楽組曲だったかな。ヘンデルとかモンテヴェルディ、それからバッハのカンタータ全集を聴き比べたり。印象に残っているのは、ホルストブリテンなどのイギリス作品、そしてベルリオーズの《幻想交響曲》など。特にピリオド楽器でのロマン派作品は、当時はかなり衝撃的でした。


ブラームスも、18年前にオーケストル・レヴォリュショネール・エ・ロマンティークを使って録音していました。それを、あえて現代オケの名門ロイヤル・コンセルトヘボウと再録音した理由について、本人はこう語っています。


「第一に、これらの交響曲が時を超えた存在だからです――誕生当時から奇跡的であり、今再び取り組んでも非常に困難で、挑戦しがいのある作品です。第二に、私は、以前の重要な経験を土台に、その成果と解釈をさらに発展させる必要と、個人的な挑戦を感じたからです。とりわけ、現代楽器のオーケストラ――なかでも際立って優れ、柔軟で、非常に熟達したロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団のようなオーケストラ――と共に新たなスタイルとアプローチの融合を探る中で。」


録音は2021年から23年。80歳前後の演奏ですが、まだまだ前向きですね。ブックレットには愛犬と一緒に写っている写真もあり、穏やかな表情が印象的です。演奏にもその穏やかさが現れているように思えます。


しかし、もうご存知の方も多いでしょうが、ガーディナーはこの録音の後、オペラ公演で暴力事件を起こしてしまい、最終的には自ら創設したモンテヴェルディ合唱団と管弦楽団を辞任しています。怒りのコントロールが難しくなってきたのか……「ガーディナーよ、お前もか」という感じです。近年、往年の指揮者たちがセクハラやパワハラで告発され、演奏活動を制限される例が増えてきました。


指揮者は、かつては絶対的な権限を持ち、「マエストロ」と呼ばれ、やりたい放題が当たり前の時代がありましたが、今はそういったパワーの行使が許されない時代。古い世代ほど、そのギャップに戸惑い、不祥事を起こしてしまうのかもしれません。ワンちゃんとの写真を見ると、後悔を経て穏やかな精神状態に戻っているようにも見えますが……どうやらまだ揉めているようです。モンテヴェルディ合唱団と、彼が新たに設立した団体との間で、いろいろとあるようですね。


彼の復帰には賛否両論あるようですが、いずれにせよ、こうして名門オーケストラと新しい録音を出せたことは、よかったのではないかと思います。


ただ、Apple Musicのニュー・リリースの一覧では、この盤が一番最後にリストアップされていました。ドイツ・グラモフォンの新譜、しかもガーディナーブラームス交響曲全集とくれば、当然注目盤として前方にピックアップされそうなものですが……。これは、Apple Music側の、事件に対する厳しい姿勢の表れかもしれません。Appleは人種問題や女性問題に敏感なアルバムを優先的にフィーチャーしていますから、こういったことにもセンシティブなのかも。


さて、演奏です。


第1番――テンポは軽やか。老成したブラームスが時間をかけて作曲したこともあり、重々しくなりがちな作品ですが、非常に若々しく響きます。オーケストラにはほとんどヴィブラートをかけさせていないようで、それが軽やかな響きの一因でしょう。コッテリしたブラームスを求めると肩透かしを食らうかもしれませんが、青年ブラームス的な響きです。柔らかなコンセルトヘボウの残響の中で、全体に優しい印象。ティンパニもガンガン前に出すような演奏ではなく、遠くで柔らかいマレットで叩いている印象です。


第2番も爽やかに始まります。やはり速めのテンポで、澄んだ響きの中をサラサラと流れるような音楽。弦をガリガリ鳴らすようなことはせず、優しいブラームス。第2楽章の冒頭も深く歌わせすぎず、あっさりしながらも細やかなニュアンス。ポルタメントを使うなど、独特の表情も見せます。響きの美しさが際立つ演奏です。第3楽章は軽やかで、オーボエも奥深く控えめに響きます。終楽章は突っ走るのではなく、第2主題でテンポを落として丁寧に。最後に少しアッチェルランド。


第3番。こちらも速めのテンポ。冒頭主題はアーティキュレーションを明確にし、後半で溜めたりと、噛み締めるような演奏です。木管、特にクラリネットのニュアンスが素晴らしい。第1楽章のコーダではテンポを速めて、前向きで情熱的な演奏。第3楽章、チェロの主題はノンヴィブラート。新鮮でもあり、少し物足りなくも感じます。終楽章も速めで、引き締まった演奏。ありがちな「引きずる」ブラームスではありません。


第4番。控えめな第1主題の提示。上品で澄んだ音色で、第2主題も粘らず、明確にフレーズを区切っていて、アーティキュレーションへのこだわりが感じられます。思わぬところで強烈なポルタメントが出てきたりして、気が抜けません。第1楽章のコーダは速めに駆け抜けます。第2楽章も比較的速く淡白ながら、ヴィブラートに頼らない味わいのあるニュアンス。途中ではヴィオラのdiv.をソロにして室内楽的響きにしているのが独特です。終楽章ではトロンボーンを前面に出したバランス。速めのテンポですが、フレーズはうねります。私の中ではこの曲はストーリーが出来上がっていて、1つづつの掛け合いにすごく意味があると思っています。許し、優しさ、後悔・・様々な感情が表現されて、フルート・ソロ――このため息に満ちたフレーズが、私の中ではこの曲の頂点、悲しみの極みだと思っています。ここは非常にゆったりと情感豊か。トロンボーンのコラールを1つずつ区切るのも特徴的。コーダに向かっては速めに一直線。古典的な形式感を前面に出した終結です。


一気に全曲を聴きましたが、録音はコンセルトヘボウの柔らかい空気感を捉え、ノンヴィブラートを基本にしながらも、そこに微妙なニュアンスを織り交ぜた演奏でした。さすがガーディナー、独自の解釈だと感じます。


……とはいえ、やはり暴力はいけません。そして、どんなに優れた演奏家であっても、道徳的・人間的に優れていなければ、現代では通用しません。昔のように「上手ければ何でもあり」だった時代は終わったのです。
演奏家の皆さん、もちろんほとんどの方は常識的道徳的だとは思いますが・・・どうか自重してね。

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