クラシックとオーディオの日々

毎日聴いている音楽の記録です。

ストルゴーズ指揮BBCフィルによるショスタコーヴィチの交響曲第1番、第3番

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今晩は、シャンドス・レーベルから8月15日にリリースされた、ジョン・ストルゴーズ指揮BBCフィルハーモニック管弦楽団、ハレ合唱団の演奏で、ショスタコーヴィチスケルツォ 作品1、スケルツォ 作品7、交響曲第1番ヘ短調 作品10、交響曲第3番 変ホ長調 作品20 《メーデー》を聴きます。プログラムは以下の通り。

ドミートリイ・ショスタコーヴィチ (1906–1975)

スケルツォ 作品1 (1919)

嬰ヘ短調
[アレグレット] – メノ・モッソ – [テンポI]
演奏時間: 5:00

スケルツォ 作品7 (1923–24)

変ホ長調管弦楽のために
P.B.リャザノフに献呈
アレグロ – ピウ・モッソ – [テンポI] – プレスト
演奏時間: 4:02

交響曲第1番 作品10 (1924–25)

ヘ短調
ミハイル・クヴァジリに献呈

  1. アレグレット – ピウ・モッソ – アレグレット – アレグロ・ノン・トロッポ (9:13)

  2. アレグロ – メノ・モッソ – イステッソ・テンポ (5:01)

  3. レント – ピウ・モッソ – ラルゴ – レント – ピウ・モッソ – レント (9:30)

  4. アレグロモルト – レント – アレグロモルト – メノ・モッソ – アレグロモルトモルト・メノ・モッソ – アダージョ – ラルゴ – ピウ・モッソ – プレスト (9:26)


交響曲第3番 作品20 《メーデー》 (1929)

変ホ長調

  1. アレグレット ♪=100 – ピウ・モッソ (2:59)

  2. アレグロ ♪=104 (2:04)

  3. ピウ・モッソ – メノ・モッソ ♪=80 (1:54)

  4. アレグロ ♪=92 (4:35)

  5. アンダンテ ♪=138 – メノ・モッソ ♪=116 – メノ・モッソ ♪=108 – レント (5:30)

  6. アレグロ ♪=76 – ♪=126 – ポコ・メノ・モッソ – アレグロモルト ♪=160 (7:04)

  7. アンダンテ ♪=84 – ラルゴ ♪=96 (4:06)

  8. モデラート ♪=88 – ♪=100 – ♪=132 – ♪=108 – ♪=132 – ♪=100 (4:34)


演奏

ハレ合唱団 *
マシュー・ハミルトン(合唱指揮)
BBCフィルハーモニック管弦楽団
ゾーイ・ベイヤーズ(コンサートマスター
ジョン・ストルガーズ(指揮)

 

また苦手なショスタコーヴィチ、って別に自分で選んでいるのですから、敢えてこのアルバムを取り上げているのですが、実は交響曲第1番は好きな作品。高校時代に一番最初に買ったショスタコーヴィチのLPがバーンスタインニューヨーク・フィルの1番と9番の組み合わせ。5番が最初ではなかったのが面白いでしょう?5番についてはこの前も書きましたが、いろんな思い出がありまして・・・以下長くなるので興味の無い人は読み飛ばして。


関西で昔放映されていた「部長刑事」というドラマがありました。このドラマの冒頭、ショスタコーヴィチの5番の終楽章の冒頭が流れ、「一人の部長刑事を通じて、社会の治安維持のために黙々として働く、人間警察官の姿を描いたドラマである。」というナレーションとともに開始されます。ご存知の方も多いかも。音楽はすぐに変わってしまうのですが、中学生の頃、曲名は知らないまま、なんてかっこいい曲なんだろう、と思っていたのです。そしてある日、ラジオでこの曲が〇〇〇〇〇作曲の(難しくて聞き取れないか覚えられなかった)交響曲第5番である、と聞き知ったのです。中学生の当時、買えるLPは小遣いのほとんどを費やして月に1枚か2ヶ月に1枚。そんな中でレコード屋に行き、当時の1000円盤で交響曲第5番を買ったのです。そしてワクワクしながらこのLPを冒頭からかけたのですが、長いシンフォニーだな、と思いつつ、いくら待ってもあの部長刑事の音楽が出てこない。とうとう最後まであのティンパニの音は聴けなかった・・・。
そう、私はショスタコーヴィチ交響曲第5番と間違ってブルックナー交響曲第5番のLPを買ってしまっていたのでした・・・。作曲家の名前覚え切れていないけど、きっとこの交響曲第5番に違いない、と思ったのですね。ハンス・クナッパーツブッシュ指揮、ウィーン・フィル、ロンドン盤(デッカ盤)。全然違う曲なのですが、しかし中学生当時は貴重品だったLP、間違って買ったとしても何度も聴く内に、なんて素晴らしい曲なんだ!と中学生のくせに思うようになりまして、もしかしたらそのあたりからクラシックオタクの道に入っていったのかも・・・。ブルックナーに目覚めたのが5番からというのも、今思えばかなり面白いですね。
そのようにしてショスタコーヴィチ交響曲第5番は買いそびれてしまったけど、FMのエアチェックや当時N響を振りに来ていたマキシム・ショスタコーヴィチの演奏をテレビで見てはじめてこの曲の全貌を知ったという訳。なんかそんなこともあって5番のLPを買ったのはかなり後になってから(ムラヴィンスキー盤)。その替わりショスタコーヴィチ交響曲を集めてみようと思い立ち、まずは1番と9番のカップリングのLPから入りました。ですから1番のシンフォニーとの付き合いは長く、しかもピアノが入ったり結構金管が鳴ったりと、カッコよく好きになりました。9番も凄く好き。当時はまだヴォルコフの証言は出版されていないし、「森の歌」は今でこそソ連共産党の宣伝みたいだからか演奏されなくなったけれど、当時は生でもよく歌われていて、私もトロンボーンでバンダのお誘いがあったくらい(当時はトロンボーンを吹いていた)。好きな曲でしたね。何の予備知識もなく、ショスタコを楽しめていたんですよねぇ。
1番はカッコいいと思って2番と3番がカップリングされたLPを買ったら、これははっきりいって訳がわからなかった・・・。それでショスタコのLP集めはストップしてしまったのですね。


さて、メチャクチャ長い前置きとなりました。今日聴くのは、ジョン・ストルゴーズ指揮BBCフィルハーモニックによるもの。ストルゴーズはヴァイオリニスト出身で、北欧の指揮者として日本にも度々来日して、読響とか都響とかを振っているので聴いていらっしゃるかたも多いでしょう。今年10月には都響ショスタコーヴィチの11番を演奏しますね。彼はシャンドスでショスタコ交響曲全集の録音が進行中で、すでに11~13、15番がリリースされています。後期の作品から攻めていくのは珍しいんじゃないかしら。今回は逆に初期の1番と3番、そして最初期のスケルツォ


スケルツォ 嬰ヘ短調 作品1。これは初めて聴く曲です。ショスタコーヴィチ17歳の作品。作品番号からしても最も初期でしょう。かわいいフルートのソロから始まります。ショスタコスケルツォといえば諧謔的なものを予想しますが、これは1つ前の時代を感じさせます。リムスキー=コルサコフとかグラズノフとか、それからちょっとチャイコフスキーバレエ音楽のような。そしてトリオのロマンティックさは本物のロマン派。


続くはスケルツォ 変ホ長調 作品7。これは響きが変わってきます。もっとモダン。そしてピアノが大活躍するのは1番のシンフォニーのよう。ここにはもうショスタコーヴィチ諧謔性が感じられます。これは先ほどのバレエ音楽からコミカルな映画音楽を連想させるもの。旋律も皮肉が端々に感じられますね。4分ほどの作品なのですが、テンポやサウンドが目まぐるしく変わります。このピアノのソロは、ちょっとペトルーシュカっぽいかな?楽しいというよりは彼の悪戯っぽさが感じられる作品。


いよいよ交響曲第1番 ヘ短調 作品10。19歳の時の作品。ペトログラード音楽院(現サンクトペテルブルク音楽院)の 卒業作品として書かれましたが初演後世界的な評判となりました。私が昔SPレコード漁りみないなのをデパートでやっていたら、大型の高級蓄音機(クレデンザかどうかは今となっては不明)でこの曲がすごくいい音で流れていたのを思い出しますが、そんな古い時代から録音されていた作品なのですね。
演奏は独特の静寂の中ミュート付きトランペットから始まります。ストルゴーズの指揮とBBCフィルは、どこか演奏の中に静けさを感じさせます。クラリネットの主題が入るところでは一段テンポを落として前に行きすぎない。熱狂的になりすぎず、抑えた演奏。録音が素晴らしくて、細かい木管のソロが大きなホールの中に点描的に現れますが、定位が点のようにピッタリ定まっています。そして各楽器のバランスが本当に見事。これは指揮のストルゴーズの手腕でしょう。ヴァイオリンソロはリーダーのゾーイ・ベイヤーズ。フォルテになってもテンポには熱が入りすぎず、どこか覚めています。オーケストラはテュッティでも混濁せず、各パートが分離して聞こえますね。いい録音です。
第2楽章のアレグロは今度はかなり速めで1楽章とのバランスをとります。それにしてもこの曲はちょっとコメディタッチの無声映画のポリスと泥棒が追っかけあっているようなイメージ。ふざけてるのかな?と思わせるくらいの諧謔性がありますね。トリオはエキゾチックでテンポをグッと落とします。戻ってピアノがこの冗談っぽいテーマを引き継ぎますが軽やか、いい音色のピアノ。この曲の面白さ、オーケストラがフルで鳴らして、最後の和音はピアノだけガーンと3回鳴らす。面白いアイディア。ピアノがめちゃくちゃうまかったショスタコーヴィチらしい発想かも。
第3楽章、オーボエの哀しい音、BBCフィルのオーボエいいですね。この曲の興味深いのが今まで冗談めかしていた音楽がここでは深い感情を表現してきます。19歳でショスタコーヴィチらしい2面性が感じられますね。冗談と沈殿
。この楽章で鳴り響く不気味なファンファーレのモチーフが何度も何度も繰り返されることで、宿命的なもの、運命的なものを感じさせます。オーケストラ全体が沈殿していき、奥深い静けさの中に入りますが、これは北欧ものを得意とするストルゴーズの特質でしょうか。そして再びベイヤーズの悲しげなヴァイオリンソロ。そして繰り返される動機。
スネアのロールから続く第4楽章は、木管のユニゾン主導。ここはBBCフィルがうまい。序奏はやはり深いストルゴーズの静けさからアレグロモルトに入るダイナミックレンジの広さ。これがこの演奏の大きな特徴かな。だからピアニッシモでヴォリュームをあげちゃうと後で大変。ティンパニのこの曲の主要リズムのソロは、決して乱暴ではなく、この楽器の澄んだ音色。これは奏者が素晴らしい。のあともストルゴーズらしい抒情的な響き、チェロが美しい。最後は若きショスタコーヴィチのエネルギーが炸裂。
ストルゴーズの演奏は、全体の構成を見渡して計算し尽くしたテンポと音響設計が見事。そして静謐性ですね、ただ弱音というのではなく、どこかすごく深い静けさが感じられる時があります。ただそれに耽溺するのではなくて、それも計算しているという感じ。見事です。


交響曲第3番 変ホ長調 作品20 《メーデー》はショスタコーヴィチ23歳の作品。この曲は先ほど書きましたが、高校生くらいの時に聞いて、さっぱり分からず放り出してしまった作品。久しぶりに聴きます。
この曲はタイトルからもわかる通り政治的な色合いが強い作品ですが、私は敢えてそこは意識しないで聴いてみます。
静けさの中から浮かび上がるクラリネット。静まり返っている夜のよう。クラリネットと低弦のピチカートの対話がさらに深く入り、ピチカートの上をトランペットソロや木管が動きを出します。徐々に動きが始まりアッチェルランドして粗野なスケルツォ。リズムの刻みの上にさまざまな楽器群が諧謔的なパッセージを奏でていきます。さらに音楽には熱が入っていきますが、これは5番のシンフォニーの1楽章と同じ緊迫感。そして不協和音を挟みつつ音響実験的。ピッコロの最高音域までしっかり録られていますね。
BBCフィルの金管群は優秀。イギリスのオケらしい、膨よかさが感じられる音色。決して乱暴にならない。ただもしかしたらこの曲の場合弾けてもいいかも。
アンダンテーレントではどこか落ち着きのない対位法的弦の掛け合いや独特のピッコロソロ、高弦の不協和音。本当に音響的に面白い。そして指揮のストルゴーズらしい静謐さと抒情性。
そしてまた対照的なアレグロモルト。ピッコロがつんざき、弦楽器たちがそれぞれ細かい音を刻みます。このあたりの2面性はいかにもショスタコ
終盤に近いレント、トロンボーン群がなる中で不気味な弦のグリッサンド。これが意味不明ながらかっこいいかも。
最後の合唱はメーデーを讃え、古いものを焼き払い、新しい社会を築くことを歌いあげ、勝利で終わります。
確かに最後の歌を聴くと政治的宣伝の曲ですが、全体の構成は何かのストーリーがあってそれに曲をつけているようにも聞けますが、敢えてそれらを無視して聞けばそこにはとても面白い音の世界が広がっているように思います。非常に面白く聞けました。
ストルゴーズの指揮とBBCフィル、この曲はゲテモノ的になりがちだと思うんですが、あまり下品になりすぎず、金管楽器を中心としたノーブルな音色でまとめています。テンポとかバランスとかはストルゴーズの設計がこちらも見事。ハレ合唱団もロシアの合唱団みたいに野太いけど粗野というのではない、コントロールされた歌。少し客観的にこの曲を見つめた演奏と言っていいかしら。これは私だけが感じるのかもしれませんが・・・でも非常に面白く聞けました。

録音プロデューサー:マイク・ジョージ
音響技師:スティーヴン・リンカー
アシスタント・エンジニア:ジョン・コール(スケルツォ 作品7、および交響曲第1番)、カーワイン・グリフィス(その他の作品)
編集:ジョナサン・クーパー
A & R 管理:カレン・マルチリック
録音会場:メディアシティUK(サルフォード、マンチェスター
2024年1月30日(スケルツォ 作品7、交響曲第1番)、5月19日(その他の作品)

表紙:AI「Midjourney」により作成されたオリジナル作品(デザイナーの協力による)
© Chandos Records Ltd

裏表紙:ジョン・ストルガーズの写真 © マルコ・ボルググレーヴ
デザインおよび組版:キャス・キャシディ
ブックレット編集:フィン・S・グンダーセン

 

 

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