
先日からたまってきたブログを作曲家別にカテゴリ分けしました。まだブログには慣れていないのですが、こんな機能があったのですね・・・。こうやって取り上げてきたアルバムを作曲家別に見ると偏ってますね・・・バッハが異常に多くてあとはちょぼちょぼ。ブラームスは好きでラヴェルは記念イヤーなので少し多いのですが、びっくりしたのがベートーヴェンがひとつしかないじゃないですか!楽聖!別に意識して避けてた訳じゃ無いんですが、聴きたい新譜をおっかけてたらこういう結果になりました。いくつか気になるベートーヴェンのアルバムはあったのですが。趣味だからまんべんなく聴かなくても好きに聴けばいいんですが、別にベートーヴェンが嫌いな訳ではありません。
ヘンデルってなんで音楽の母なんですかね。実は女性だった!?たぶん前世紀の日本の音楽教育の中で、バッハを音楽の父、としたから母もいなくちゃいけない、で、同時代のヘンデルを母にしちゃったのではないかしら。小学校の音楽室には必ず作曲家の肖像画が貼ってあって、音楽の父、バッハの隣に母の肖像画がないといけない、と思ったのか。まああのカツラは女性っぽくないとはいえない・・。
話がどんどんそれていきますが、「ジャジャジャジャーン」という田中マコトさんが書いた漫画コミックご存じでしょうか。たまたま田中さんと仕事した縁で読んでみたのですが、、クラシックファンなら抱腹絶倒。深夜の音楽室の肖像画から夜な夜な作曲家が出てきてその超個性的なキャラクターでメチャクチャなことするんですが、ベートーヴェンは割合真面目だけど変なコンプレックスがあったり、バッハが守銭奴だったり、モーツァルトなんか想像すればわかると思いますが、超軽いキャラで出てきます。その中でヘンデルは女性っぽくて女言葉で話すという・・・なんでそんな話し方するんだ、と問われると、みんなが母、母というから自然に女っぽくなっちゃった・・・みたいな。笑えますのでぜひ。ちなみにワーグナーは敢えて取り上げなかったそうで、出版社から止められたからとか。ワグネリアンって怖いらしい・・・・。
ということで、いつもながら前置きが長くなりました。クァルテット・ヴァンヴィテッリは2017年に結成されたイタリアのバロック音楽アンサンブルで、ジャン・アンドレア・グエッラ(ヴァイオリン)、ニコラ・ブロヴェッリ(チェロ)、ルイジ・アッカルド(チェンバロ)、マウロ・ピンチアローリ(リュート)の4人によって構成されています。ヴァンヴィテッリはバロック時代の建築家で、その名前を冠しています。
ヘンデルのソナタはフルート吹きにはメージャーで、そんなに難しくないので初心者の方でも最初にやる曲だったり。私ははるか昔ですが、ハンス・マルティン・リンデがリコーダーでヘンデルのソナタ集のアルバムを出して、それが素敵でまねてリコーダーで一生懸命吹いたり、トラヴェルソでも演奏したりしてきました。で、このブックレットを見るとどうも出版者が勝手にフルートでもオーボエでも吹けるように移調して出版してしまったようです。本当はヘンデルはヴァイオリンで弾くことを想定して、調性もオリジナル譜はちょっと違うとか。そうだったのか、音楽の母。
ここではそんないい加減な当時の出版された曲集のなかで、敢えて偽作と言われている物も収録しています。当時はほんとメチャクチャでヘンデルじゃなくっても売れるなら入れちゃえ、みたいな感覚だったんでしょうね。ただそれによって当時の趣味とか音楽の時代傾向がわかる、ということでしょう。偽作と判定されたとたんに音楽的価値が下がるわけではないので、この選択はいいかも。
さて、演奏です。録音は北イタリアの小さな村のホテル・ボイテで行われた模様。三角屋根の建物が見えるのでそこが響きがよさそうだからそこでしょうか?素晴らしいロケーションのホテルで冬はスキーができそう。ブックレットには「録音期間中のホテル・ボイテのスタッフによる温かいもてなしにも感謝申し上げます。」という謝辞が入っています。天井の高さが感じられる良い残響とくっきりとしたヴァイオリン、奥から聴こえるチェンバロとチェロ、そして空間に漂うようなアーチリュート、とてもいい録音です。
演奏はしっとりとしたチェロとリュートから始まるニ長調のソナタ(HWV 371)で美しい旋律線と通奏低音がシンプルに絡んできます。1楽章は1749年くらいに書かれたフルートソナタが原曲。バッハのソナタと違って、基本的には高音と低音の2声。2楽章ではやはりその頃書かれたオペラの主題のフーガで即興的ですがカデンツァも入り聴きどころ。チェンバロのアッカルドが挿入曲として短い独奏を入れて、しみじみとしたラルゲットのあと、ファンファーレのような元気のいいモチーフの4楽章。シンプルなのですが、リュートとチェンバロが入ることでとても多彩な響きになりますね。
次のニ短調のソナタ(HWV 359a)は美しいリュートのソロから始まります。これはこのアンサンブル独自の構成で物語的な雰囲気。この曲はホ短調のフルート版で私も何度か吹いたことがある曲ですが、全然雰囲気が違いますね。やはり原曲のヴァイオリンが相応しい。アレグロの後には原曲にはないオペラのアリアをアレンジした作品が挟まっていますね。
続くホ長調とト短調は偽作とのことですが、言われなければわかりません。資料による推測というだけだと思うのですが、同様に素敵なソナタ。偽作ってなんかイメージ悪いけれど、決して音楽的に劣っている訳ではないんですよね。最後の曲の4楽章はチェロが先導するオペラのアリアが挿入されて美しい
このようにただ楽譜通りに演奏するのではなく、オペラのアリアのメロディやヴァイオリンのカデンツァ、チェンバロやリュート、さらにオルガンなどの独奏が時々入るのもこの団体の演奏の特徴。こういうちょっとした演出がただただソナタを聴くよりもずっと変化があって面白い。今までにない楽しい世界です。もちろん古楽奏法でノンヴィブラートのヴァイオリンとチェロでニュアンスに飛んだ演奏。
バッハのヴァイオリンソナタの時に宗教的、また高度な対位法を駆使した3声のトリオソナタ的な作品に対して、基本的にはヴァイオリンとチェロの2声構成で、オペラからの引用も多いおおらかなメロディが特徴。こうやって聴くと確かにバッハは厳格な父、ヘンデルは柔らかい母だなぁ。さまざまな演出を取り入れて最後まで飽きさせないアルバムでありました。