クラシックとオーディオの日々

毎日聴いている音楽の記録です。

ヴィオール奏者のサロメ・ガスランの「ミステール」(神秘)

今晩はヴィオール奏者のサロメ・ガスランの「ミステール」(神秘)と題されたアルバムを聴きます。
ガスランのアルバムを聴くのは2枚目かな。最初のアルバムソロ・アルバム《Récit》は非常に選曲にこだわって面白く聴けましたが、今回は神秘というテーマで彼女がこだわった作品をプログラムに配置しています。彼女のこだわりは、いかに作品の中に入ってトランスできるか、ということ。ヴィオールってそういう響きがします。内側へ内側へ入っていって、どこまでも奥深い響き。演奏は独奏ありヴィオールコンソートあり室内楽的な編成ありと変化に富んでいます。
まずアルバムの冒頭を飾るのは、バッハの《幻想曲 ト長調BWV 572。最初はヴィオールのソロ。これがカッコいい!スピード感があって生き生きとした演奏。録音は教会でしょうか、後ろに鳥の声がいっぱい入っている。こういう臨場感ある録音好きですね。このあとはヴィオールとオルガンの合奏、これが重厚でまたこの前聞いたファンタズムとはまた響きが違うかな、古雅さよりももう少し音に厚みがる合奏。この曲は不思議な曲で、突然この流れが断ち切れてオルガンの細かいパッセージが入ってきます。なかなか斬新なアレンジ。
作者不詳のヴィオール独創で、コラール「主に感謝せよ」合間に短いコラールが挟まれていくのがこのアルバムの特徴。
続くはバッハの無伴奏チェロ組曲第2番ニ短調。ガンバで聴くこの曲はまたチェロの太くて雄弁な演奏とは違って、細い訳ではないけれど、倍音が非常に多く、美しい音色、そしてやはり重音が多彩ですね。ガスランはまさにトランス状態、聴いているこちらも引き込まれます。
次はビーバーのソナタ。オルガンの伴奏でこれはかなり過激で、しかも変化の多い作品。ビーバーはヴァイオリン奏者としてだけでなく、ヴィオールの名手としても知られていたとか。ところが火災でヴィオールの作品がほとんど失われ、この曲はヴァイオリンでもヴィオールでも演奏できるという作品で、珍しいビーバーのヴィオール曲が聴けるというわけです。
続くはコラール《Allein Gott in der Höh sei Ehr》(ただ神にのみ栄光あれ)。ガスリンはバッハの時代のコラールは生活のあらゆる場所にあって、人々にとってとても重要なものだったとのこと。ここにふっと挟まれる無伴奏ヴィオールのコラールによってちょっとほっとする感じ。
BWV997のリュート組曲のファンタジアはヴィオールの二重奏で演奏されます。リュートの曲をこの編成でやるのも珍しい。この曲はフルート版もあってよく演奏されて、吹いたことあるけれど、ニュアンスは全く違いますね。繊細さと力強さが見事に溶け合って素晴らしい。
続いてバッハのオルガンによるトリオ・ソナタBWV528のアンダンテ。オルガンとヴィオール2本でアレンジされていて、また深い響き。非常に親密なアンサンブルでまるでオリジナルのよう。そして曲の間にピーチクパーチクと可愛い鳥の声が聞こえるのが最高!
そしてまた作者不詳のコラール《Ach mein Glück》(ああ、わが幸いよ)が無伴奏で挟まります。常にコラールが溶け込んでいるってなかなかいい。
ビーバーの《守護天使パッサカリア》。無伴奏。演奏は深くトランスしつつもパッサカリアの同じリズム低音の中での変容が非常に面白い。この曲はかなり高音が使われているのも特徴ですね。ビーバーはロザリオのソナタという連作を作曲していて、ザルツブルグのベネディクト大学の講堂で16枚の大きな聖母マリアの人生にまつわる神秘を描いた作品群で、一番最後の礼拝堂の入り口の上に飾られた守護天使の場面をヴィオールソロのパッサカリアで締め括ったとのこと。非常に多声的でヴィオールの可能性をとことん追求していますね。この延々と続くパッサカリアの繰り返しは、祈りの繰り返しとも言えるかも。じっと耳を澄ますとこちらもトランス状態に入ってきます。
終わるとまた鳥の囀り。
最後はコラールBWV 601《主キリスト、ただひとりの神の子》がヴィオール合奏とオルガンで、これは繰り返しでは多彩な響きがとられていて素朴さよりもその巧みさに惹かれます。でもこうやってところどころコラールが挟まると、本当に落ち着きますね・・・バッハのカンタータをよく聴いていたからかと思うのですが、トランス状態からふと覚めて現実に戻るというか・・・トランスから覚めた、そして神秘から現実へ。そんな効果があるかな。そして最後は鳥の声で締めくくり。いいですね。